コラム

安倍政権が核燃料をアメリカへ「返却」した理由

2014年03月27日(木)12時59分

 これは、アメリカのエネルギー政策の現状に沿った動きであり、日本がアメリカの子分であるから「プルトニウムを減らせ」とアメリカに言われているのでありません。なぜならば、アメリカ自身も保有しているプルトニウムを減らそうとしているのです。

 例えば、先ほど申し上げた「MOX燃料」に関しては、アメリカは「プルサーマル機」の商用運転などの実用化はしていませんでした。ですが、長期的なエネルギー戦略の中で実用化を模索はしていたわけで、実際にサウスカロナイナ州で「MOX燃料工場」の建設プロジェクトがスタートしていたのですが、これを今年の3月に「中止」するという決定が出ています。

 オバマ政権は、久々に原発の新設を認可して東芝=ウエスティングハウス社のAP1000という最新世代の原子炉によるジョージア州の発電所が着工されています。ですが、一方ではシェールオイルなどの産出が増える中で、一層のエネルギー自立、エネルギー多様化が進んでいます。そんな中、先進性はあっても当面の採算性の見通しのないMOXは断念するということになりました。

 では、どうしてアメリカは日本にもエネルギー政策への同調を求めているのでしょうか? これは日米関係の中で、こうしたエネルギーや安全保障に関する重要な点では歩調を揃えたいということもありますが、もっと単純な話として「全世界のプルトニウム総量をとにかく減らしたい」という政策を推進しているからだと考えられます。

 そんなわけで、少なくともアメリカは「親分だからいくらでもプルトニウムが持てる」一方で、日本は「子分だから不要なプルトニウムは手放さなくてはならない」というような非対称な話ではありません。

 現在の国際社会では、核不拡散というのは大きなテーマであり、とりあえず中国もロシアも入った形で、IAEA=NPTの体制というものが機能しています。その一方で、北朝鮮やイランにおける核開発の動きがあり、また盗難によって核物質がテロリストの手に渡る危険性なども指摘されています。そのような危機意識の中で、今回の「核燃料の返却」という判断があったと理解できます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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