コラム

今度という今度、アメリカの銃規制論議は動き出すのか?

2012年12月19日(水)11時45分

 12月14日(金)、コネチカット州ニュータウン町のサンディフック小学校で発生した乱射事件では、小学校1年生のクラス20人の生命が奪われるという衝撃的な結果に、全米はまだ激しい感情の中で揺れています。事実関係に関しては、まだまだ不明な部分が多いのですが、そんな中、今度という今度は「銃規制論議」を正面切って行うべきだ、そんな機運が出てきているのは事実だと思います。

 とりあえず現時点での動きや論点を箇条書きに整理しておこうと思います。

(1)オバマ大統領は腹をくくったようです。事件直後に涙ながらの声明を出して「有効な対策を講じる」と宣言して以降、週末のビデオ会見、週明けに現地入りしての追悼集会でのスピーチなど、「銃規制(ガン・コントロール)」という言葉をハッキリ使ってはいないものの、その「行間ににじむ」ものとしては明確な覚悟が感じられます。

(2)では、どうしてハッキリ言わないのかというと、とにかく政治的逆効果を警戒しているからだと思います。野党・共和党は「銃の保有の権利擁護」をほとんど党是にしている政党であり、仮にオバマがハッキリした言い方で銃規制を口にしてしまえば、どこかで激しく抵抗してくる可能性があります。幼い生命が20人も奪われた国家的な「服喪期間」に、そうした政治問題化を進めるのは長い目で逆効果という判断があると思います。

(3)ちなみに、この間、2009年11月のテキサス(軍医による基地内での乱射事件)、2011年1月のアリゾナ(下院議員襲撃乱射事件)、2012年7月のコロラド(映画館襲撃事件)などオバマ政権になってからも大規模な乱射事件があったわけですが、オバマ大統領は「銃規制」を政治課題にすることには極めて慎重でした。それは何よりも「国論分裂」を恐れたからであり、また「銃保持派」の活動を刺激することは大統領選などの政局には不利という計算もあったと思われます。ですが、今回の事件はその総てを吹き飛ばすインパクトがあったと言えます。

(4)一方で、政界での議論はスタートしています。口火を切ったのは、ダイアン・ファインスタイン上院議員(カリフォルニア、民主)です。この11月の総選挙で再選されたばかりの彼女は、1月の新議会に「アサルトライフル(自動小銃)および連射用マガジンの禁止」を議員立法として提出すると宣言しています。1994年から2003年まで有効であったこの規制をとりあえずは復活させようということです。

(5)ジャーナリズムの世界では、現時点ではネットやケーブルTV、新聞の論調を中心に「銃規制の推進論」が展開されています。ただ、主要な論客は、ニューヨークのブルームバーク市長、映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』で銃社会を告発したマイケル・ムーア監督、そして英国人としてアメリカを客観視する役回りを与えられているCNNのピアース・モーガンといった顔ぶれであり、従来から銃規制論者として有名な人々が中心です。3大ネットワークなどは、あくまで「銃規制論議が起きていること」を報道するというスタンスに留めています。

(6)こうした中で、12月17日(月)から18日(火)にかけては、事件のあったニュータウン町の住民が、一致団結して「ワシントンへ向けて銃規制の実施を訴える」運動を開始すると表明しています。これは動きとしては相当なインパクトを持つと思われます。

(7)18日(火)にNRA(全米ライフル協会)が声明を出しています。その中では、規制を受け入れるとは一言も言っていないものの「ライフル協会として再発防止のためにあらゆる協力を惜しまない」と述べるなど、この協会にしては異例の「低姿勢」を見せています。また21日(金)にはNRAとして代表が会見するということで、注目が集まっています。ちなみに、この間、協会として沈黙を守ってきたことについては「礼節を示すため」ということです。

(8)基本的には、ファインスタイン議員が提案したようなアサルトライフルの禁止という1994~03年まで続いた規制を復活させるということが直近の課題として浮上しています。規制推進派としては、当面の作戦としてはここに集中して成果を出そうという構えです。一方、NRAなど銃保持派としては、そのあたりを妥協点にして、それ以上の規制には発展しないように防戦する構えを取ってくるのではないかと思われます。

(9)本当はアサルトライフルなどという強力な武器については、販売を禁止するだけでなく、豪州が実施したように「社会から一掃する」ための努力も必要です。それは、しかしながら「次」の課題になるのだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、農場やホテルでの不法移民摘発一時停止 働き手不

ワールド

米連邦最高裁、中立でないとの回答58%=ロイター/

ワールド

イスラエル・イラン攻撃応酬で原油高騰、身構える投資

ワールド

核保有国の軍拡で世界は新たな脅威の時代に、国際平和
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story