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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
消費税論議を政局と絡めないための交通整理とは?
与謝野馨氏が「たちあがれ日本」を離党し、無所属の立場で菅内閣の経済財政大臣として入閣しました。今回の人事の本質は「消費税増税による財政好転」を行うという意図がそこにあり、かねてからこの主張を続けてきた与謝野氏を、菅総理が迎えたということにほかなりません。ですが、この人事に関しては、民主党内に敵を作ったとか、特に小選挙区の同じ海江田大臣が怒っているとか、与謝野氏の権力欲や節操の無さが不快だとか、色々なことが言われているようです。今回の「菅+与謝野」のコンビが、そうした力学の中で果たして人心を把握できるかは分かりません。ですが、消費税論議そのものは、今回のタイミングで、逃げてはいけないように思います。
ところで消費税論議とは何でしょうか?恐らく次の8つぐらいの立場があるのだと思います。
(1)財政再建のための歳入増を図るために有効であり、速やかに実施すべきである。
(2)実施すべきだが、現在は「一時的な不況」なので即時実施は景気回復を待って行うべき。
(3)日本経済はやがて回復して税収が増えるので実施は不要。むしろ構造改革が大事。
(4)増税や構造改革ではなく、バラマキを続けて景気回復を行うべき。
(5)既に増税可能な時期は通過してしまった。今後の増税は消費減退と相殺されるので歳入増にはならない。
(6)官庁の公務員の既得権益が潰せない中の増税には一切反対。
(7)年金や資産運用で生活している自分には不利益なので一切反対。
(8)民意は増税には無条件反射するので、自分の議席を守るためには反対。
この中で(4)の選択肢というのは、麻生内閣の政策だったわけで彼は(3)の上げ潮派や、(1)の財政再建派との政治闘争に勝利して首相になったのです。正確に言えば(4+8)です。面白いのは「自分の内閣では消費税増税はやらない」という「政権交代後の鳩山内閣」もこの8種の中では(4+8)に近いわけで、消費税問題に関してはこの麻生政権と余り変わらなかったということです。ちなみに(3)の立場は現在では非常に少なくなっているのではと思います。
では菅直人という人、そしてその内閣に加わった与謝野馨氏の主張とは何なのでしょうか? これは非常に単純です。
「我々は(1)を主張する。何故なら(4)が不可能になったからである。(3)には反対。(5)ほど悲観はしていない。(2)ほど楽観的ではない。」
そんなところでしょう。政権の立場がここまで明確なのに、どうして反対論が陰湿な政局論や人間ドラマになってしまうのでしょうか? それは日本の政界やジャーナリズムが「劣化」したからではないのです。反対論にも(2)から(8)まで色々あって、それぞれに立場が異なるので「議論を整理できない」からです。例えば、(6)や(7)は感情論や利害関係に縛られた議論ですから、冷静に他と意見交換はできそうもありません。
ここで問題なのは、(8)です。この「選挙の洗礼を受ける」人間の動物的本能が、有権者の(6)の情念や(7)のホンネと結びついて与野党のドロドロした反対論を作っているわけです。勿論、正論としてはそうした政治家と有権者の結託がエスカレートすれば国が潰れてしまうわけですが、とにかく巨大なエネルギーがそこに集まってしまうのは避けられません。そこでどうしても整理された議論にならないというわけです。
ちなみに「税と社会保障の一元化」や「TPP」論議が先行しているように見えるのは、(6+7+8)に正面から激突するのは得策ではないという官邸の戦略があるからだと思いますが、早晩消費税の論議に入っていくのは避けられません。とにかく(1)と(2)、そして(5)の立場を代表する政治家なり論客が、問題点を整理して正々堂々と政策論争をする場を設けるべきだと思います。このまま曖昧な形で、消費税増税が決定されるのも、否定されるのも、先送りされるのも、いずれにしても将来への不透明感を強めるだけです。それは日本という社会の、国内的な自信も、対外的な信用も大きく損なうことになるからです。とにかく決定が可能であり、決定が必要なのだと思います。
年金と税の一元化やTPP論議も同じで、感情論や既得権者をまず置いておいて、「長期的に成り立つ話なのか?」を議論することで合意形成への道を求めるべきだと思うのです。その意味で、私は今回の与謝野入閣を政局の解説だけで終わらせるのには反対です。少なくとも、(5)の、「もはや手遅れ」論に破滅願望が混ざるような言論よりははるかに健全だからです。
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