コラム

ペイリンは決断するか?

2010年04月14日(水)11時00分

 中間選挙まで6カ月近くとなりました。選挙を決するのは夏の戦いですが、では今年の夏はどんな政治の戦いが見られるのでしょうか? どうも、現時点ではその構図がハッキリしないのです。問題は、共和党の体制であり、特に2012年を見据えた大統領候補の不在という問題が重くのしかかっています。

 鍵を握っているのは、他でもないサラ・ペイリン女史です。草の根保守の「ティーパーティー」運動の象徴に祭り上げられた彼女ですが、これから夏の政局へ向けてどう動くのか、その一挙手一投足に注目が集まっています。共和党内でも、また全国調査をしても世論としては「ペイリンは大統領に要求される資質はない」というのが多数派ですが、とにかく個人の人気と言う点では圧倒的なのです。

 そのペイリンには恐らく3つの選択肢があると思います。第1の可能性は、もう一度副大統領候補になり、誰か有力な候補を支えるという可能性です。ただ、このパターンは1回やって失敗しているわけで、特に共和党としては「社会価値観の点でそんなに保守派ではない中道候補」を選んで、そこに右派票を乗せるためにペイリンを「副」にするという手法を一度使ってダメだったというのは、ある意味で決定的です。

 決定的というのは、オバマに負けたという意味ではなく、ペイリンが著書の中で「マケイン陣営から選挙戦の間ずっと見下されていた」という部分が、支持者の間でペイリン人気の理由になっているからです。「妊娠中絶や不法移民阻止を本当は考えていないニセ保守候補」をごまかすために「副」に据えられるのは「もうごめん」だというのが、保守派の声である以上、同じ手は使えないのです。

 2つ目は、とにかく「キングメーカー」に徹するという作戦です。ギリギリまで影響力を高めておいて、どこかの時点である大統領候補を支持すると宣言し、その候補にお墨付きを与えるのです。ただ、この手法ですと、その「大統領候補」が彼等の言うところの「真正保守」でないとダメだという問題があります。中道実務家で草の根保守には受けの悪い候補では、「ペイリンが支持したから」というだけでは票が乗せられないのです。となると、かなり右だが実務家でもあるというような候補になるのでしょうが、例えばハッカビーをペイリンが推すというのは、なかなか難しいようにも思います。保守政治家の人気というのは、特にポピュリストの場合は「自分で稼ぐ」のが通常だからです。

 例えば、ギングリッチ(現時点では有力だと言われていますが)をペイリンが支持して、ペイリンも少しトーンダウンしてギングリッチを立て、政策も現実味を出して行くなどというパターンになれば、当面はうまく行く可能性がありますが、この流れに収まるかどうかは分かりません。それにタイミングの問題もあります。ギングリッチを推すのなら、そろそろ決断の時だと思うのですが、その気配はありません。

 ということで3つ目の選択肢、つまり「ペイリン自身が大統領候補に擬せられて行くところまで行く」ということに「なし崩し的に」なっていく可能性が出てきました。実際に共和党内でも、「政策のプロではなくても、レーガンみたいにコミュニケーションのプロとして化けてくれれば」などという期待論があるようです。例えば、ペイリンを大統領候補にして、「副」に実務家を置くというパターンは共和党として慣れているとも言えるでしょう。レーガンの「副」は実務家のブッシュ・パパでしたし、ジョージ・W・ブッシュはチェイニーが「副」として実権を奮っていましたから。ペイリンが大統領候補で、「副」はギングリッチなどという可能性も(ギングリッチが呑むかどうかは分かりませんが)話としてはアリでしょう。

 ペイリンが「正」であれば、「副」は相当中道に寄せても票が取れるという可能性もあります。ペイリン=ロムニー(ロムニーが乗る可能性は薄いですが)などという「右+中道」チケットにしても、ペイリンが「正」なら保守票は来るでしょう。まあ、しかし相手がオバマですから、論戦で勝つのは難しいでしょう。ペイリンが勝つには、可能性としては、TV討論などで「オバマがペイリンを見下している」という局面を作り出して、それをメディアが誇張して扱うようなパターンしかないと思いますが、賢いオバマがそんな術中にはまるとは思えず、やはりムリでしょう。

 冷静に考えれば、1番ありそうなシナリオは、3番目、つまりペイリン自身が「大統領候補」になることを模索し続けて、結果的にその他の選択するタイミングを失ってしまい、大統領候補として予備選で負けて、何らかの形で誰かを推す、そんな流れになるのではと思います。その場合は「副」で出ることもないでしょう。

 ペイリンを軸として見ると、そんな展開になりそうですが、それはともかく共和党の一番の問題は、オバマへの反論が「政府肥大化への恐怖」という1点だけで、ロジックが受身なのです。そうではなくて「反対のための反対」を脱して、積極的にあるべき政府のイメージを作って訴えることをしなくては、党勢は伸びないでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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