コラム

「ホワイト・クリスマス」を喜ぶアメリカ、真の危機はどこへ?

2009年12月25日(金)12時49分

 年の瀬のアメリカは寒波に襲われています。私の住むニュージャージーなどの東北部では、12月としては100年ぶりという大雪に見舞われました。寒気は緩んだとはいえ、クリスマスを完全に雪景色で迎えることになりました。一方、中部は今現在大変な寒波で、ミネソタあたりでは猛烈なブリザードとなっており、オクラホマからミネソタまで非常事態宣言が出ているようです。一方で、南部にあたる、ノースカロライナからバージニアにかけてはアイス・ストーム(氷結する雨)警報が出るなど、今年のクリスマスは厳冬となりました。

 そうは言っても、元来がクリスマスというのは、北国の厳しい冬を前提に、その折り返し点である冬至祭という民間習俗が、いつの間にか砂漠の中から生まれたイエス・キリストの誕生日という信仰と結びついたものです。ですから、人々は「ホワイト・クリスマス」だということで、喜んでいるというのも自然なのです。そんなこともあって、街には明るい雰囲気を感じます。22日に私はニューヨークまで出かける用事がありましたが、街は大変な賑わいでした。

 ここへ来て、景気の回復基調がハッキリしてきたというのも大きいようです。クリスマス・イブの24日には、雇用統計が発表されましたが、失業保険の新規申請数が45万2000(前月は48万、アナリストの予想値は47万)と予想外の好転を見せ、「半ドン」だった株式市場は上昇して終わりました。消費の方は、先週の大寒波で数字が下がったとはいえ、イブの夕方ギリギリまでショッピングモールは賑わっていました。「リーマン・ショック」から1年と3カ月、「天が崩れて落ちてくる」などと言われた昨年の危機感はどうやら過去となりつつあります。

 政治もここへ来て、安定してきました。この24日のイブの早朝には、懸案の「医療保険改革」法案がついに上院で可決されています。勿論、これからは下院案との一本化作業が待っており、ペロシ下院議長などは「上院案は骨抜きにされており、改革とは言えません」と防戦の構えですが、対立といっても民主党内での穏健派とリベラル派の調整で済むわけで、メディアは楽観しています。1月末の大統領による「年頭一般教書演説(ステート・オブ・ユニオン・アドレス)」直前に法案を成立させて、オバマ政権としては高らかに成果を宣言するという筋書きのようですが、それがかなり現実的になってきました。

 何とも穏やかな世相を見ていますと、昨年来の「危機」とは一体何だったのだろうかと、ふと疑問に感じてしまうのです。不動産バブル崩壊のハードランディングはとりあえず公的資金の機動的な投入で乗り切った、更に景気刺激策を発動して株価を戻した、雇用回復は遅れたが好転の兆候が見えたところでドル安懸念も抑え込んだ、とりあえず現時点ではこの1年3カ月はそんな流れでした。一方で、製造業は勝てる領域に特化して、後は製造を外注して国内は商業中心にカネを回す、更には金融センターとしての投資資金流入でキャッシュフローを維持、世界規模での軍事プレゼンスを維持する一方で「面倒な戦争」には期限を切って政治経済の破綻を回避、というわけで「アメリカというビジネスモデル」は見事に健在というわけです。

 日本と比較すると、何とも歯がゆいのは、アメリカの場合は「労働者の権利」がそこそこ守られているために、そして転職市場が柔軟に存在するために、激しいリストラによって要員の削減はされても、時間当たり賃金の低下は起こらなかったということです。結果的に、デフレ・スパイラルへの転落はほぼ回避された格好になっています。人材と人件費の相関に落ち着きが見られる背景には、エリート教育がグローバリゼーションに最適化されているという点も挙げられるでしょう。

 そんな中、冬休みを迎えた映画館では、ジェームズ・キャメロン監督が『タイタニック』に引き続いて巨費を投じた『アバター』がたいへんなヒットになっています。封切りの週末時点で7700万ドルという数字も大きいのですが、月曜日から水曜日までの3日間の平日でも、連日のように1600万ドル台を売上げており「口コミ効果+リピーター」でジワジワと客層を拡大してゆく様子は、12年前の『タイタニック』の再来のようです。

 アメリカとして唯一、磐石の国際競争力を誇る「実業」であるエンタメ、コンテンツ産業についても、この『アバター』が本格的に3D映画の可能性を開いたとするならば、これまた産業としては衰退とは無縁のように見えます。キャメロン監督の前作『タイタニック』が、ハリウッドの底力を見せつけたのが1997年の同じ12月で、その後にIT革命の好景気が絶頂を迎えたように、12年後の現在には再び経済全体の好循環を予想することもできるでしょう。勿論、医療保険改革が財政負担を拡大する以上、国家の累積債務とドル暴落という危険性は続きます。ですが、アメリカは当面それを跳ね返すだけの、経済社会の活力を取り戻すかもしれません。

 危機はどこへ行ったのでしょう? 大量生産品の改良による付加価値創出で「行き止まり」に突き当たった、そんな日本の閉塞感は、あくまで日本固有の問題なのでしょうか? アメリカの危機は回避され、その「製造拠点」兼「資金源」である中国の繁栄と抱き合わせで、当面の世界経済は推移するのでしょうか? そうは単純には行かないと思います。アメリカの危機克服の中には、中長期では深刻な危機が内包されており、日本経済の極端な不調の中には長期的に見れば新時代を切り開くヒントが隠されている、私にはそう思えてならないのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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