コラム

長江フェリー沈没事故で消されたマイナス報道

2015年06月08日(月)17時13分

pepper0608.jpg

 今回、長江でフェリー沈没事故が発生した後、共産党政府はいつも通りの手慣れたやり口を繰り出した。それはこんな風だ。

 中央宣伝部が限られた中央メディア以外の各省・市レベルの取材と報道を一律禁止/事故現場への道に検問所を設け、乗客の家族や記者が近づくのを禁止/現場に着いた家族はバラバラに分けられたうえで監視され、外に出る時は尾行が付き、家族同士が連携を取ったり、外国メディアと接触するのも禁止......。

 ネット上で大量の「ネット水軍(編集部注:政府寄りの書き込みをするネット要員)」とネットボランティアが政府に疑問を呈する声を攻撃し、あらゆるメディアの論調は共産党政府の強調する「正能量(編集部注:プラスエネルギー、人に活力を与え、前向きに行動させる言葉や事象)」になった。その結果「中国人に生まれて、これ以上の幸せはあるだろうか」「4日と3晩、あのわれわれが感動した瞬間」「救援最前線、中国のイケメンは全員ここにいる!」「子供よ泣くな、私は長江にいる。既に母親の胸の中に帰ったのだ」......といった、とても受け入れがたいニュース記事の見出しが並んだ。

 日本にある「アジア通信社」の徐静波社長も、マイクロブログの微博に感情的にこう書き込んだ。「きらびやかな夕焼けが命を照らす! (船が)水から出る瞬間、天と大地と大河は同時に輝いた!」。当然、彼のこの書き込みは激怒したネットユーザーによって削除に追い込まれた。

 数々の受け入れがたいメディアの記事は、温家宝前首相が四川大地震の時に言った奇妙な言葉を思い起こさせた。「難多くして、邦興る」。この言葉はどう考えても、まともじゃない。毎月発生する死者数百人、いや、時に1000人にもいたる重大な事故のおかげで中国は強大な国家に変われるというのだろうか?

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、ウクライナ南部の2港湾攻撃 トルコ船舶3隻

ワールド

タイとカンボジアが攻撃停止で合意、トランプ氏が両国

ビジネス

FRB現行策で物価目標達成可能、労働市場が主要懸念

ワールド

トルコ大統領、プーチン氏に限定停戦案示唆 エネ施設
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story