コラム

アメリカで「でっち上げ陰謀論」が流行ったことの意味

2022年03月02日(水)14時10分

アメリカはそもそも、新大陸に引っ越すほど自身の信仰を貫きたい人や、戦争を起こすほど政府の言いなりになりたくない人たちによって創られた国。独立主義というか、天邪鬼というか、その精神が深く根付いている。それに、専門家や権威より、一人ひとりの気持ちを優先する極端な個人主義の国でもある。陰謀論人気の文化的な背景は否めない。

また、イラク戦争やベトナム戦争の開戦口実が一番分かりやすいが、政府が実際に国民を騙した前科もある。タバコの有害性や温暖化の原因など、企業が不都合な真実を隠蔽した歴史もある。そんな過去から、権威からの発信をすぐ鵜呑みとしない「健全な疑心」を持つ国民の気持ちも分かる。

しかし、個人主義や健全な疑心がアメリカにあっても、陰謀論大国になる必然性はないはずだ。やはりメディアの責任も無視できない。メディアが調査と検証を重ね、嘘や誤報を正し、真実をしっかり伝える「情報の門番役」をしっかりやっていれば、国民の「正しい疑心」と「正しい確信」を育てられるはず。

しかし、その責任を放棄している組織もある。フェイスブックなどのオンラインプラットフォームもそうだが「報道機関」と名乗るいくつかの機関もそう。医療関連NPOのカイザー・ファミリー財団が調べたところ、その人が「信用する報道ソース」によって陰謀説を信じる割合は大きく異なる。

バカバカしさに気付いて!

ニュースマックスやワン・アメリカ・ニュースのような新興保守メディアやフォックス・ニュースを信用する人はCNNを信用する人より3~4倍の確率で陰謀説を信じているのだ。アメリカの陰謀論問題を解決するなら、みんなが信用する報道ソースを信用する「べき」報道ソースに変えるしかないようだ。アメリカ人が全員ニューズウィーク日本版を読んでいればいいのにね。

行きすぎた個人主義。前科持ちの政府。誤報三昧の報道。大きな課題を抱えているアメリカだが、Birds Aren't Realという現象には一種の希望も見えた。創始者ピーターを含め、そのフォロワーのほとんどはZ世代の若者たち。そんな「フェイクニュースネイティブ」といえる彼らが陰謀論のばかばかしさに気づき、それを周知する運動を起こしていることは実に嬉しい。ぜひ応援したい。

ちなみに、冒頭の会話で「鳥はウソかもしれない」と思い始めた人、やめてください。鳥は本当にいるよ。友達の河童が言っていたから、間違いない!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story