コラム

トランプの嘘が鬼のようにてんこ盛りだった米共和党大会(パックン)

2020年09月03日(木)15時40分

1)元フロリダ州司法長官のパム・ボンディはバイデンが副大統領だったころに息子が利益を得るように職権を不正に使った疑惑を取り上げ、バイデンを厳しく批判した。疑惑の内容自体は事実無根であって「ウソだ!」の瞬間でもあった。しかし、それをはるかに超える衝撃があった。「大統領は政府内の立場を活かし、自己利益や家族の利益のために立場や権限を使ってはいけない!」という常識的なメッセージを発したのだが、その時の画面が非常識なことになっていた。演説中の人物の顔の下にCNNはその後に登壇する人のラインアップを並べていたが、ボンディの顔の下に揃った3名はメラニア・トランプ、ティファニー・トランプ、エリック・トランプ。大統領の家族が登場しまくる党大会に「縁故主義反対」の演説? ウソだ~!と、ひっくり返りそうになった。

トランプは大統領に就任してすぐ娘と義理の息子を重要なポストに任命した。娘のブランドを政府のイベントやホームページでPRした。息子が経営する会社のリゾートホテルに政府関係者が泊まるようにし、3年ちょっとで約100万ドルの税金をトランプリゾートの宿泊料に使ったのだ。そして、今回の党大会で妻、娘、息子、もう一人の娘、義理の娘、そして息子の彼女にまで演説をさせた。ちょうどお盆でみんな帰省していたから都合がよかったのでしょうかね。でも、ボンディさん、怒りの矛先、間違っていない?

2)「法律と秩序」を中心的なテーマにした共和党大会に重罪の容疑者が出演したときにも「ウソだ~」! 今年6月に自宅の前に行進していたBLM(Black Lives Matter=黒人の命も大事)運動のデモ参加者にピストルとライフルを向けたことで逮捕、起訴された白人夫婦のことだ。党大会の初日にビデオ出演し、ヒーロー扱いされる様子がテレビで全国中継された。そしてその翌日、ウィスコンシン州のBLMデモ参加者に白人男性が同じように銃を向けて引き金を引き、2人撃ち殺したのだ。こちらも保守メディアから英雄視されている。これが与党の目指している「秩序」なら実に怖い。特にアメリカの黒人の皆さんにとっては。日本にいる白人の僕もビビっているぐらいだからね。

与党が考える「法」にも疑問がある。トランプは国土安全保障長官代行が5人の移民を集めホワイトハウスで帰化セレモニーを行ったときの映像を党大会で流した。(アンチ移民で有名なトランプが? ウソだ~)。さらに、ホワイトハウスで元受刑者に恩赦を与える映像も流した。そして、ポンペオ国務大臣は訪問先のイスラエルの首都エルサレムからビデオ出演し、ペンス副大統領は演説準備のためにわざわざ全面閉鎖された国定史跡で、メラニア夫人とトランプ大統領はホワイトハウスで演説を行った。どれも政治活動のために政府の施設や連邦職員の職権の利用を禁じるハッチ法に違反すると、法律の専門家が指摘している。つまり、法の厳守を訴える演説をしながら法律を犯していたのだ。それを見てさすがに大きな「ウソだ~!」が口から漏れた。トランプ夫妻はホワイトハウスでやるのはしょうがない。今はやりのリモートワーク、在宅勤務なだけだ! そういう人もいる。だが、6つの住宅と11ものリゾートホテルを所有しているトランプは、僕(納税者)が電気代を払っている物件をわざわざ使う必要はないだろう。

重鎮の家族の出席はゼロ

3)なにより、毎日数万人の新規感染者と約1000人の死亡者を記録する世界一のコロナ感染大国の与党の党大会だ。そこで大勢の人が集まり、マスク無しで握手したりハグしたりして、「もう4年!」とか「USA! USA!」と大声を出したりする光景に一番大きな「ウソだ~!」を放った。

今年6月にも感染拡大中にトランプがオクラホマ州タルサで選挙集会を行った直後、スタッフ8人が感染していたことも発覚し、タルサでの感染者が急増した。偶然ではない、とタルサ市の衛生局長が言う。それでも、規模を縮小したとはいえ、共和党は「リアル党大会」を実行することにした。そして、参加者とスタッフを合わせて4人がすでにコロナ検査で陽性だ。

しかし、繰り返しコロナの脅威を軽視するトランプから支持者はソーシャルディスタンス(社会的距離)をとらなくても、共和党の重鎮は政治的なディスタンスをとっている。ブッシュ家、チェイニー家、レーガン家など、この半世紀共和党を代表してきた家族からは1人も出席も出演もしなかった。「電通が絡まないオリンピック」のような、普段なら想像できない異例の出来事だ。

だが、その重鎮たちは以前から距離を置いていた。一方でトランプの味方の政治家は誰も離れない。1人以外は。それはトランプを支援する黒人グループの会長で、2016年の有力大統領候補だったハーマン・ケイン氏。彼は6月に開かれた政治集会にトランプの応援に駆け付けてくれたのに、今回の党大会には来てくれなかった。なぜなら、その集会に出席した直後にコロナに感染して入院し、7月末に亡くなったからだ。

信じてはいけない誤報にウソだ! 信じられない光景に呆れたウソだ~! 共和党大会は本当にそんな出来事の連発だったが、そう思ったのは僕だけじゃないはず。会場に集まった熱狂的な支持者はUSA! USA!と声を合わせていたかもしれないが、テレビの前で全国のみんなはUSO! USO!と大合唱していたと、僕は願いたい。

<関連記事:トランプはもう負けている? 共和党大会
<関連記事:トランプ、黒人差別デモに発砲した白人少年は「正当防衛」

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 7
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story