コラム

オウム死刑で考えた──日本の「無宗教」の真実

2018年07月13日(金)15時30分

アメリカ人から見れば、日本の宗教色は確かに薄い。およそ半分のアメリカ人が教会に通う。信仰心が強く、普段から布教活動をしている人も多い。キリスト教専門のラジオ局もテレビ番組もある。日頃から十字架のジュエリーを身に着けている人をよく見る。その1人があの有名なポップス歌手。十字架を着けるだけではなく、マリア様の別称を名乗って活動しているのに、半分冒涜的な内容の曲で有名なあの人。それでも、皮肉なことにキリスト教徒にもマドンナファンは多い。

生活レベルの話だけではない。政教分離をうたいながら、アメリカ政府関連のものにも宗教の要素が浸透している。公立の小学校で学生が毎朝唱える Pledge of Allegiance(忠誠の誓い)の中には One nation, under God(神様の下の一つ国)とあるし、大統領は就任式で、裁判で証言者は聖書に手を載せて誓う。また、ドル札には In God We Trust(われわれは神様を信用している)と書いてある。逆に、発行元の連邦準備銀行を信用していないのかと、ちょっと不安になるくらいだ。

そんなわが国に比べると、確かに日本は「無宗教」に感じる。でも、「無」ではない。上記の調査からも分かるように、何らかの信仰を持ったり、宗教っぽい行動を取ったりしている人がほとんど。占いや風水なども人気だ。さらに、宗教的なイベントも目立つ。盆踊りを踊ったり、お神輿を担いだり、神社仏閣でお祭りを楽しむことは毎年の風物詩。有名な話だが、日本人は生まれるときは神社、死ぬときはお寺、さらに近代だと結婚するときは教会にお世話になると、人生の節目にも宗教が必ず絡んでくる。

それだけを見ると日本は「有宗教」な国だ。でも他方で、毎週お説法を聞きにいったり、毎日お祈りをしたりする人は少ない。布教活動をする人とはめったに出会わないし、神様の思し召しに合わせて仕事や結婚相手を選んだり、人生のいろいろを決めたりする人もほとんどいない。

また、何かの信仰をもって、他宗教に対して排他的な考えや行動を取る人も見ない。現代の日本人が持つ宗教概念の下で戦争を起こしたり、他人を虐げたりすることもまずなさそう。結局は楽しい儀式を残しつつ、宗教のマイナス面を省けている。ほどよい塩梅の宗教観だと、僕はいつも感心している。

では、これをどう表現すればいいのか。無宗教はとりあえずやめてみよう。外国に比べると熱度が低いから「薄宗教」や「弱宗教」と言えるかもしれない。もしくは、都合のいいときにだけ利用しているから「コンビニエンス宗教」も考えられる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

25・26年度の成長率見通し下方修正、通商政策の不

ビジネス

午前のドルは143円半ばに上昇、日銀が金融政策の現

ワールド

米地裁、法廷侮辱罪でアップルの捜査要請 決済巡る命

ビジネス

三井物産、26年3月期は14%減益見込む 市場予想
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 3
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story