コラム

安保法案については、アメリカ人だから語りません

2015年07月31日(金)20時00分

 96条に定められた憲法改正の要件のうち、発議に必要な「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」とあるのを議員の過半数の賛成でもOKにしようとしたわけだ。

 しかしそれにも苦戦してしまった。安倍首相は結局、改憲せずに解釈を変更することで武力行使ができると主張し、安保法案の立法に踏み切った(長年連れ添った夫婦の片方が、急に「結婚制度の解釈変更で不倫ができる」と主張し始めた・・・・・・みたいな感じがするが、僕はそんなことは言わない)。

 もちろん安保法案が違憲であれば破棄されるはず。それが憲法の抑制力。しかし違憲立法審査を行うのは最高裁判所。ここに日本の特徴が出てくる。日本の最高裁は韓国のような「憲法裁判」ではない。さらにほかの国のように抽象的違憲審査制を採用していない。日本では、特定の事案がないと違憲かどうかを審査できないのだ。実際に海外派遣などで自衛隊員が死亡し、その遺族が裁判を起こしたりするまでは、裁判で安保法制の合憲性を検証することができない。

 しかも歴史的に、防衛関係の裁判に関しては「高度な政治判断だ」とし、憲法判断を下さない傾向がある。ブレーキのひとつは利いていないも同じだ。

 では、民意はどうだろう。選挙で選ばれた議員が民意に沿って活動するというのは、どこの民主主義国にとっても基本の仕組みだ。しかし最近、日本では民意に反する政策が目立っている。記憶に新しいものだけでも、特定秘密保護法、原発の再稼動、米軍基地の移設、労働者派遣法などなど盛りだくさんだ。

 また、今回の安保法案に関しても、たとえば自衛隊の活動範囲が「非戦闘地域」から広げられることや「日本周辺」という文言が外されること、議員の事前承認が不要になることなどの内容には、国民の過半数が反対している。各種世論調査からも、そうした状況は政府に伝わっているはず。それなのに、止まることはない。「国民の理解が進んでいないのは事実」と認めながらも法案を採決した。

 なぜそんなことができるのか? ここにも日本の独特さがある。それは、立法権が衆議院に集中しているということ。参議院で否決された法案でも、衆議院の3分の2の票があれば再議決ができる。67%の議席数は高い基準と思われがちだが、衆議員は総選挙で全員同時に決まるから、そのときの出来事や特定の時勢など一時的なファクターでひとつの政党が圧倒的な議席数を一気に勝ち取ることができる。去年の総選挙もそんな「今だ!」感が強かったよね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ関連タンカー拿捕 トランプ氏とマチャ

ビジネス

米新規失業保険申請件数、予想外の9000件減 季調

ワールド

トランプ氏、ミネソタ州で「反乱法」発動を示唆 移民

ビジネス

ドイツGDP、25年は市場予想通り0.2%増 景気
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
特集:総力特集 ベネズエラ攻撃
2026年1月20日号(1/14発売)

深夜の精密攻撃でマドゥロ大統領拘束に成功したトランプ米大統領の本当の狙いは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 2
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試掘の重要性 日本発の希少資源採取技術は他にも
  • 3
    イランの体制転換は秒読み? イラン国民が「打倒ハメネイ」で団結、怒りの連鎖が止まらない理由
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    年始早々軍事介入を行ったトランプ...強硬な外交で支…
  • 8
    中国、欧米の一流メディアになりすまして大規模な影…
  • 9
    母親「やり直しが必要かも」...「予想外の姿」で生ま…
  • 10
    正気を失った?──トランプ、エプスタイン疑惑につい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率が低い」のはどこ?
  • 4
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 7
    母親が発見した「指先の謎の痣」が、1歳児の命を救っ…
  • 8
    「高額すぎる...」ポケモンとレゴのコラボ商品に広が…
  • 9
    世界初で日本独自、南鳥島沖で始まるレアアース泥試…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story