コラム

安保法案については、アメリカ人だから語りません

2015年07月31日(金)20時00分

 アメリカの場合は、下院、上院、大統領の3つの判子が押されないと法律にならない。そして、この3つの判子の在り処が同じ政党で揃うことはめったにない。日本では数年前の「ねじれ国会」がもの珍しかったけど、アメリカの政府は普段からねじれまくりだ。

 もちろん、対立している大統領の拒否をくらっても、両院の3分の2の票決で法を通すことはできる。しかし、上院議員は各州の代表であり総選挙では選出されないから、一気に議席数が変わることも珍しい。上院では、野党が大体4割以上の議席を持つ。それで再議決だけではなく、端から議事妨害を行いどんな法案の立法をも阻止できる。日本ではブレーキが利いていない面があるが、アメリカではブレーキが利きすぎているとも言える。でも、少なくとも権力乱用の抑制は可能だ。

 もうひとつ忘れてはいけない独特さは、日本が「事実上」一党制に近い状態にあるということ。ほかの国は野党と与党が定期的に入れ替わることが多く、与党の危機感が常に高い。いつ政権を失ってもおかしくないからこそ、民意にアンテナを張っている。日本はこの70年間で総理大臣がころころ変わっている。が、自民党が与党から外れたことは2回しかない。政権交代の恐れがなければ、与党が民意に沿う必要をあまり意識しないかもしれない。「フラれてしまうかも!」と思って初めて彼女を大切にする男もいるよね。そんな感じ。

 こうやって司法や立法制度の特徴を並べてみると、ブレーキが働かない理由がわかるよね。その実態の恐ろしさが「強行採決反対」の裏にあるのかもしれない。確かにケビンさんの言うとおり、今回の安保法案採決は「強行」じゃないのかも。ルールに基づいた単独採決だ。でもそれで本当にいいのか。仮に安保法案は正しいとしても、次に出てくる法案はどうかな? その次は?

 抑制がないままだと・・・・・・法案が間違っていても、違憲であっても、民意に反していても、同じく採決はできるということになる。与党の思うままにすいすい通せるってわけ。実は強行じゃないからこそ、怖いのかもしれない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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