コラム

【大江千里コラム】僕のジャズには(実は)歌詞がある

2020年06月13日(土)16時10分

ボーカルなしのジャズピアノ曲「Togetherness」の譜面 SENRI OE

<大江氏はジャズをどう作曲するのか? ジャズを始めた頃、「ポップスの書き方をそぎ落とさないとジャズ曲は産めない」と考えていたという大江氏がたどり着いた、ポップスを経ての自分らしいジャズとは>

前回は「なぜポップスをやめたか」を書いたが、今回は「ジャズをどう作曲するのか」について書く。

ポップスには、未経験への憧れを描ける年齢には限界があるという意味の「不自由さ」がある。一方でジャズには、ルールを守れば自由に遊べる「不自由さを超えた自由」がある。

ジャズの不自由さとは、「自由」を生み出すために多くの基礎知識が必要であること。この道は行き止まり、天気が悪くても傘は差せない、など覚えておくほうがいい規則がある。

ジャズはどこまで「即興」なのかとよく聞かれるが、決まっているのは頭の部分だけ。それを最初と最後に2回演奏するという約束事さえ覚えておけば、あとは「自由」だ。

大人の遊び方ってフリースタイルで「門限のない夜遊び」をやるのではなく、守るべき規則を守るからこそ濃密な本物の「自由」の意味が浮き立つ。この「不自由」を遵守するストイックさと、真っ白なキャンバスに絵を描く「自由」とのバランスこそがジャズだと言える。

これはニューヨーク的だ、とも思う。多文化多民族を受け入れ、共存する街には目に見えないルールがある。他者を尊重する、夢の足を引っ張らない、危機時には同じ方向を向く、など。

それを守れないなら、ニューヨーカーからはみ出ていく。逆にそれができる人が生き残る。ニューヨークがジャズの街なのはこういうことなのかもしれない。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=米中協議控え小動き、トランプ氏の関税

ワールド

印パ緊張一段激化、カシミールで爆発相次ぐ 米は「双

ビジネス

FRBバランスシート縮小なら利下げ可能=ウォーシュ

ビジネス

訂正英中銀、0.25%利下げ 関税が成長・インフレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    教皇選挙(コンクラーベ)で注目...「漁師の指輪」と…
  • 5
    恥ずかしい失敗...「とんでもない服の着方」で外出し…
  • 6
    骨は本物かニセモノか?...探検家コロンブスの「遺骨…
  • 7
    「金ぴか時代」の王を目指すトランプの下、ホワイト…
  • 8
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 9
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 10
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 1
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 5
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 9
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 10
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story