コラム

すべての経済政策が間違っている

2021年10月14日(木)19時45分

つまり、需要の先食いに過ぎず、しかも、それは一過性、かつ一期間に集中するために、その需要をうまく処理できず、消費者の側の満足度も低くなる。まあ、GoToで得したからいいか、という感じである。将来の需要増加につながらないどころか、減ってしまう。

さらに、貧乏根性でありながら、少しお金のあった人たちは、この機会に、とばかりに今まで泊まったことのない、そして将来はGoToなしでは行くことのない高級旅館、ホテルに泊まる。リピート客とは程遠い。だから、需要喚起にならない。

さらに悪いことに、そういう旅館、ホテルの常連客は、普段来ない人々が押し寄せるため、落ち着いてすごせないため、行くのを止めてしまう。消費額も利益率も高くなるはずの一番よい顧客層の需要を失ってしまい、満員御礼でてんてこ舞いの旅館の利益も失われる。リーズナブルな旅館やホテルの需要は増えない。誰も得しないのである。

そして、税金だけが失われる。過密にもなりやすいから、感染リスクも普通の観光よりも高い。

しかし、最も根本的に間違っているのは、なぜ観光業が苦境にあるのか、ということを無視して、それと無関係に政策を打ち出していること、税金をばら撒いていることである。

なぜ、観光客が減ったか。感染が怖いからである。緊急事態宣言で自粛を呼びかけたからである。行動制限がかかったからである。

したがって、需要を元に戻すには、行動制限を外してやればよい。それだけのことだ。

その意味からすると、今は、政策的に補助をする意味はまったくない。行動制限を外されて、ある意味タガが外れて、人々はどっと押し寄せているからである。

そんなことない、コロナ前の水準にはまだ届かない、という観光業者の不満があるなら、それは、別の理由からきている。依然、コロナ感染を怖がり続けて、自主的に行動制限をかけている人々がいるからである。これは、高齢者富裕層に多い。彼らは、金がなくなって旅行をしなくなったのではない。恐怖と不安によりしなくなったのである。だから、それへの対策は、金を配ることではなく、感染不安をなくすことである。GoToは、彼らにとっては、感染不安が増えるだけであり、逆効果である。

観光業を救済するならば、この1年半で傷ついた財務の建て直しを助けることである。過去の債務処理に関して銀行側にインセンティブを与えることが重要である。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、州に有権者データと投票機器へのアクセ

ビジネス

財政政策が日本国債格付けのリスク、参院選後の緩和懸

ワールド

インドネシア中銀、0.25%利下げ 米との関税合意

ビジネス

アングル:円安への備え進むオプション市場、円買い介
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 2
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 3
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 4
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 7
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 8
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 9
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 10
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 4
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 8
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 9
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 7
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story