コラム

コロナとさえ戦わない絶望の国ニッポン

2021年05月03日(月)07時41分

一方、自粛というイベントに飽きた若者層は、旅行でも外食でも行きたかったが、カネがなく、GoToキャンペーンという税金補助もなくなったので、一気にカネを使わずに、路上飲みや友人宅でパーティーを行った。サービス消費経済は大きく落込んだのである。

日本経済がこれだけ危機に陥り、社会は恐怖に包まれているのに、なぜか、政府はオリンピックに躍起になり、すべてを差し置いてオリンピック優先である。GoToは世論の逆襲にあってやめたが、なぜか聖火リレーは続けられ、会食禁止、集まり禁止と言いながら、芸能人を多数起用し、ギャラなしでオリンピックを盛り上げるイベントに動員し、沿道にミーハーな人々の密を作った。

そして人々は、政府の緊急事態宣言もワクチン戦略もすべてはオリンピックのためだと解釈し、非難し、飲食店の人々はとりわけ怒りに燃えた。それにもかかわらず、もちろん感染状況次第ではオリンピックはできません、しかし、その最悪の事態にならないように全力を尽くしますと言えばいいだけなのに、オリンピックができないこともありうるというのは禁句で、何があっても触れない、という態度が、人々の政治不信を加速し、自粛要請に対する反発を高め、今後の政府の分析、説明、呼びかけ、すべての効果をさらに失わせている。

ただ一言、感染状況次第と言えばいいだけなのに、頑なに否定し、自分たちの権力の影響力を低下させることをあえてやっている。馬鹿なのか、利害関係からオリンピックをどうしてもやりたいという気持ちに正直すぎるのか、いずれにせよ、意味不明で、この些細なイベントにより、政策の優先順位がすべて混乱している。

ワクチン接種では公平性に拘る愚

コロナワクチンの話もそうだ。とにかく、早く多くの人に打つことが重要であるにもかかわらず、隣町との公平性が重要で、市町村にどう割り振るかで揉めている、誰に打つかで揉めている、不手際はいちいち批判される、まったく行政の効率性は最低レベルである。

一方、人々も、副作用に過剰反応し、申し込みにも殺到し、感情的にしか行動できない。優先順位が間違っている。とにかく、早く大勢に打つことが重要で、自分が打とうが、周りが打とうが、効果はあるのだから、全員が打ち終わるのを早くすればよい。公平性は後だ。

しかし、最大の問題は、政治家も専門家も、間違ったことばかり1年も言い続けている。これが最大の問題だ。

まず、感染リスクについてすら、いまだに通勤電車の混雑を減らせ、テレワーク7割などと言っている。ソーシャルディスタンスや三密など、すでに間違いだったことがはっきりしたことを誰も訂正しないどころか、いまだにそれを主張し続けている。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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