コラム

GoTo一斉停止、なぜここまで愚かなことになってしまったのか

2020年12月15日(火)10時38分

ロクな仕事もしないまま、GoToトラベルの全国停止に追い込まれたように見える菅首相(12月14日の記者会見) Hiro Komae/REUTERS

<「国民のために地道に働く」と言っていたはずの菅総理は、なぜかGoToという飛び道具を持ち出して経済を刺激しようとしたが、すべては裏目に出た>

GoToトラベルのいまさらの一時停止が、やっと決まった。

そもそもGoTo自体がいかなる意味でも誤った政策であることは当初から再三述べてきたが、ここまでちぐはぐになってしまったのは、誰のせいなのか。

まず第一に、過剰なコロナ対応が4月5月に行われたことが、根源だ。

8割人出を減らすという無意味なことが行われ、新型コロナの危機に陥っていない東京がNYやロンドンを越えて、何十万人も死者が出ると脅し、善良で愚かな人々を恐怖に落としいれ、その後、そのトラウマで新型コロナは何よりも怖い、という前提が確立してしまった。

高齢者は過度の恐怖に陥ったまま夏と秋を迎え、若者は、政府やメディアの空騒ぎを馬鹿にし、コロナ対策はする必要ない、自己責任だから勝手にやるよ、と開き直った。

もちろん両者は誤っていて、コロナは適切な対策を行うべき感染症だが、それ以上でもそれ以下でもなく、急性期医療よりも優先するものではまったくなく、また、重要な手術、例えばがんの手術を延期するなど、ありえない愚かさだ。また、感染症対策は自己責任ではなく、社会での感染の広がりを抑えるために行うのだから、自己責任ではなく、社会全体が責任を負わねばらないから、自分がよければよい、というものの対極にあり、根本的に間違っている。

税金でウイルスをばら撒く

さらに、総理は何を勘違いしたのか、移動自体は感染を広めない、などと、感染症対策の要諦を無視し、感染拡大地域から、感染がまったくない地域へ、あえて税金を補助金としてばら撒いて、観光旅行を促した。

通勤の電車でおしゃべり飲み食いをする人はいないが、GoToでの旅行者のほとんどは飲み食いをし、おしゃべりを続け、マスクは飛行に乗るときと人目についたときだけする。だから、もちろん、GoToでは感染が日本中に広がった。

4月5月に過剰に対策をしたこと、自粛をしたことの反動で、若者は言うことを聞かないばかりか、経済優先を早く実現したいと、過剰自粛ムードに春からいらいらしていた官房長官は総理になり、専門家会議や感染症関係者の言うことは、経済のことを無視した自分たちの領域のことしか考えていない偏った考え方だと、信頼も信用もしなくなり、無視することにした。自分だけが、世間から批判を受けても、正しいことを行う正義の味方だと勘違いした。

彼の心意気は、私はいまでも評価をする。

しかし、ブレーンが足りないのか、知恵が足りないのか、わからないが、常識で誰にでもわかることが、彼だけにはわからなくなってしまっている。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

片山財務相、城内経財相・植田日銀総裁と午後6時10

ビジネス

Temuの中国PDD、第3四半期は予想上回る増益

ビジネス

豪賃金、第3四半期も安定的に上昇 公共部門がけん引

ビジネス

EUは欧州航空会社の競争力対策不足=IATA事務局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story