コラム

GoTo一斉停止、なぜここまで愚かなことになってしまったのか

2020年12月15日(火)10時38分

そもそも、彼は日常への復帰、異常なコロナ騒動からの平常時への復帰を目指し、解散もせずに、地道に仕事をしたい、と言っていたはずなのに、GoToという飛び道具で経済を刺激する、という発想が間違っているし、「勝負の3週間」というのも根本的に思想が間違っており、コロナという感染症とは長く付き合っていかなければならず、短期決戦を行うものではない。日常への復帰、その中で、適切な対策を淡々と行うことしかない。

デジタル庁の前に、保健所のファックスをデジタル化するべきだし、スマホの接触確認アプリも放置したままだ。そもそも、配る金があったら、コロナ専門病棟を東京、大阪、札幌に春につくっておいて、普通の病院はコロナ以外の病気に従来どおりに集中する、ということもしていないで、仕事がしたい、と。離婚届にはんこを要らなくすることよりは、重要な仕事だと思うが、重要な仕事は進んでいなかった。

そして、彼が熱心に行ったGoToで感染は日本全体に広がった。

GoTo叩きでまともな移動が自粛

GoToを行い、それに対する批判、反発が生じ、GoToを使わない、レジャーでないビジネス、家族への静かな訪問も自粛ムードに包まれてしまった。

ビジネスや家族思いの人々はまともで、心配性だから、過度に自粛をする。もともとしゃべらない一人の移動も自粛してしまう。

GoToの人々の一部は、GoTo批判が高まり、いつ中止になるかわからないから、ということで駆け込み需要を行った。ここ数週間の週末の飛行場は家族連れや若いカップル、若い友人同士で溢れ、平日と様相が一変していた。

そして、一番重要なクリスマス、年末年始、すべての旅行は自粛されることになる。

GoToを中止しただけだが、多くのまともな人は旅行そのものをすべて取りやめるだろう。忘年会だけでなく、静かな家族の食事も自粛するだろう。

もっとも大事な時期に、もっとも大事な穏やかで静かな食事の機会が失われ、遠く離れた家族同士のつながりが失われる。

私の親友も、秋田の横手の実家には帰らない。

愚かだったのは、4月の有識者、政治家、とりわけ知事たち、そして自粛警察の人々だが、その影響は現在にまで及び、それどころか裏目裏目に出て、雪だるま式に愚かさは膨らみ、もともと愚かでなかったはずの最高権力者がもっとも愚かな行動をとることとなってしまった。私は、最高権力者は、いまでも愚かな人間であるとは思っていない。しかし、彼の行った政策意思決定は、ささいな失敗の積み重ねであるが、日本の21世紀の歴史において、もっとも不必要でもっとも愚かしいものとなってしまった。

残念で堪らない。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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