コラム

日本学術会議は最後に大きな仕事をした

2020年10月13日(火)11時29分

菅首相は学術会議が出した推薦リストも見ていないと語った(写真は9月16日、菅内閣発足) Issei Kato-REUTERS

<6名を拒否した理由が定かでないなら、残り99名が「合格」したのはなぜか。政府の説明の不明瞭さは、学問的実績への無関心さを示している>

学術会議の話は大した話ではない。

政府が要らないというなら、廃止すればよい。

学問の自由とかそういう問題ではなく、まず第一に、政府は学問なんてどうでもいいと思っているということが再度はっきりした、ということだ。

6人を拒否した理由を説明すれば、別に政府の任命だから、ああ政府に気に入られてないのね、ということで構わない。理由がないと、政府がどういうのが好きでないのか、わからないから、国民としても、政府は何を目指しているのか、わからない。

しかし、それよりも問題なのは、99名を任命したのだが、彼らのことは、では気に入っているのか、評価しているのか、政府の公務員として任命していいのか、という判断をどのようにどこでしたのか、わからないし、その基準もわからない。

6名の拒否の理由はともかく、99名を「合格」とした理由、精査して判断した理由を説明する必要がある。学術会議の推薦だから、ということで、中身をみてない、ということだろうが、じゃあ6名は、ということになる。

しかし、しかし、個人的には、学問的実績にまったく興味がない、というところが政府の最大の問題であり、それが今度明らかになったということが最大の問題だ。

小さい血族のような政権運営

これはいつものことで、学者というのは、ノーベル賞を取る奴以外は、価値がないと思っているのであり、学問はそれ以外に意味がない、と思っているのである。あるいは、企業や日本経済の儲けになる技術を開発すれば素晴らしく、それ以外はどうでもいい、という考え方なのである。

戦争に役に立てば、ということを彷彿とさせる、とすぐに左の人たちは言いたがるが、この日本社会のクセは、戦争は単なる一例にすぎず、コロナであっても、オリンピックであっても、それがどうでもいいことでも、悪いことであっても、目の前の一つのことをすべてとし、それ以外はすべてそれに捧げないといけない、という習性があり、それが問題なのだ。

学問が社会を長期的に支え、発展させるということなど、目先のことに比べればどうでもいい、ということだ。コロナ以外のことが見えなくなり、今度は、地方の観光、都市の飲食業のことしか見えなくなり、目先の対応でおろおろしている。それだけの政府であり、社会なのだ。

そして、もう一つ個人的に、再度意を強くしたのが、今回の政権の裏切り者は許さない、というゴッドファーザーを思い起こさせる、徹底した、人情主義のテイストだ。尽くしてくれたものは徹底的に面倒を見るが、裏切り者はどんなにちっぽけなうさぎでもねずみでも決して許さない。

小さい血族のような組織としては、理想的な組織運営をしているが、それが現代社会を統治する論理として通用するか。統治という言葉自体適切でなくなっている部分もある現代社会に通用するか。

そういう仮説の検証を、日本学術会議は最後に身を挺して実験しているのである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story