コラム

善良な9割以外の日本人の行動を変えさせろ

2020年04月12日(日)11時28分

緊急事態宣言下、閑散とした渋谷駅前の交差点(4月8日) Issei Kato-REUTERS

<外出自粛、マスク、手洗い、うがい──大半の日本人は緊急事態宣言以前からできることはすべてやってきた。重要なのは、もともとリスクが高い行動を取る人たちの行動変容だ>

8割接触を減らせ、8割人出を減らせ、と国民を説得しているが、効果が限定的なのは仕方がない。

8割人出を減らしても、効果は8割未満だからだ。

理由は簡単だ。

全体のうち9割の人が8割減らしても、1割の人が以前のままであれば、全体での減少は7割にとどまるから、というのが、おそらくまじめすぎる学者達の計算で、そう答えるのはまじめな人。それでは社会は理解できない。

8割と7割では、専門家的には違う、ということかもしれないが、この1割よりももっと致命的な欠陥がある。

それは、この1割の人々は、もともとリスクが高い行動を取る人たちであり、彼らの行動を変えない限りは、肝心の問題のある接触が減らないからだ。

こんなことを愚痴りたくないが、感染者に関する報道や政府の言動から明らかな感染の拡大の大きな原因は2つ。

夜の店での拡大。感染経路不明の多くがこれだと思われ、また感染者もなかなか口を割らないだろう。

もうひとつ致命的なのは、報道などの事例を見ると、いったん熱が出たが下がったので、仕事は続けた、出勤したが、その後容態が悪くなり、検査をしてみたら陽性だった、というもの。

ハイリスクな人ほど自粛しない

熱が出たり、何か気になる症状が出たりしたにもかかわらず、外出を続けている例があまりに多いことだ。

これではまったく意味がない。

無症状の人からも感染するという話ばかりが強調され、それが多くの人を恐怖に陥れ、全員の自粛を求めているが、もちろん、それはそれとして自粛したほうがよいのだが、それよりも何よりも、まず、症状があった人、熱が出た人、この人たちは、何があっても自主的に外出をやめるべきだ。それを徹底しないこと、徹底できないことが感染拡大の大きな要因だ。

すなわち、自粛から緊急事態宣言となっても、もともと感染するリスクも、拡大させるリスクもない善良な人々は、初期から自粛につとめ、手洗いうがいを含め、あらゆる注意を払っているからリスクはさらに抑えられていたのだが、自粛をさらに強める。一方、リスクを気にしない上に(だからこそ)リスクを取り続ける人々は、自粛ムードになろうが、政府やメディアがどう宣伝しようが、自分は関係ないとリスクを取り続け、症状が出てもまだ何もせず、いよいよ酷くなってから、おかしいと思って検査をして、そこで初めて反省する。

つまり、リスクのない人ほど自粛に勤め、リスクのある人ほどリスクを取り続ける以上、自粛的な方法では、社会全体のリスクは減らないのだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタ、23年度は世界販売・生産が過去最高 HV好

ビジネス

EVポールスター、中国以外で生産加速 EU・中国の

ワールド

東南アジア4カ国からの太陽光パネルに米の関税発動要

ビジネス

午前の日経平均は反落、一時700円超安 前日の上げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story