コラム

新型コロナショック対策:消費税減税も現金給付も100%間違いだ

2020年03月19日(木)17時29分

今回のコロナ経済ショックは、移動の制限、活動の制限、自粛から経済活動が停滞したものだ。その結果、外食産業とりわけ夜のアルコール消費関連業の売り上げが激減し、旅行関係、観光業、とりわけ海外からの観光客に依存した産業が大きな痛手を被っている。米国でも最大の対策は、航空会社の救済であり、財政支出規模も大規模なものになりそうだ。

したがって、救うべき産業とは、まず第一に、これらの特定業種である。それにもかかわらず、給付金などによって一般的な消費を刺激すると、巣籠消費と呼ばれる、宅配事業関連、食事でいえばデリバリー関連、ゲーム、インターネット関連の消費がすでに異常に増えている分野、それらの消費がさらに増えるだけで、困っている業種の人々は救えず、忙しくなりすぎて供給が追い付かなくなっている業種の人々がさらに忙しくなって、処理しきれないだけである。過熱した部分をさらに過熱し、冷えた部分にはまったく熱が伝わらない、という無意味な暖房なのである。

さらに根本的な間違いは、景気をよくするために、消費を刺激する、そのために消費者サイドに所得を移転しようとしているが、消費者は別に困っていない。典型的な例でいえば、働いていない高齢者は、感染リスクの不安にさいなまれているとは思うが、所得の心配はしていない。だから、消費者に補填するのは間違いなのである。

対策は、必要なところにピンポイントで及ぶものがベストである。

失業者と中小企業を救え

それはどこか。

失業者である。それに尽きる。

フリーランスの問題がクローズアップされているが、まさにそうで、フリーの人々はまっさきにイベントなどの自粛により仕事が減ってしまっている。しかし、残念ながら、彼らに直接届かせる経済政策は限られている。これはフリーランスの宿命で、俳優業の団体などが窮状を訴えているが、それらの業種は性格上仕方がないので、冷たいようだが、もともとの業種としてリスクがあるということだ。

100%ベストな政策はない。しかし、それでもできるだけ、ピンポイントで本当に困っている人を救済することにできる限り努力するしかない。それはまず、失業者への対応と、行き詰る中小企業への支援である。

この二つだけを徹底的にやるべきであり、日本中の消費者に現金を配るのは、目的を取り違えているのである。

もしこれをわかってやっているのであれば、新型コロナ対策と言いながら、日本全体の景気の数字さえよければよい、本当に困っている人を救うかどうかはどうでもいい、という発想に基づいているとしか思えない。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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