コラム

なぜ米国の一流経済学者が日本に二流のアドバイスをするのか

2019年07月08日(月)14時00分

ここまで考えて、結構歩きすぎたことに気づき、ホテルに戻ることにした。もうすでに結構暑くなってきた。汗もかいている。時間もいつのまにか8時近い。

急いで同じ道を引き返していると、行きと帰りでは同じ道でも印象が違うとはよく言うが、別世界を目の当たりにした。

私のほうへ向かって、つまり私とは逆向きに、多くの若者がiPhone(いやSamsungかもしれない)とイヤホンで音楽を聴きながら、ジョギングをしているのである。

私は呆然とした。

私の1時間半の散歩中の思索による政策提言はすべて無駄だったのである。

無駄であるどころか、大間違いである可能性があったのである。

日曜日の朝、若者たちは土曜日の夜遊びに行かなくてはならず(そういう強迫観念がソウルの若者にはあるらしい)、誰も日曜日の朝は早起きできないのである。8時を過ぎてようやく少しずつ若者が出てきたのであり、時間を追うごとに河川敷の遊歩道は年齢層がどんどん低下してきたのである。

老人だけを私が見たのは、たまたまそういう時間帯だったというだけだったのである。

お前はただの阿呆か、と言われるだろう。

もちろん、阿呆である。

しかし、阿呆なりに学んだのは、これで米国一流経済学者が日本にリフレ政策やMMT、果ては消費税引き上げ延期、財政出動をまじめな顔でえらそうに提案する理由がわかったのである。

アメリカでは間違わない理由

彼らは、お気楽に無邪気に思い付きをしゃべっているだけなのである。しかも、米国経済学者は世界一であるという(正しい面もあるのだが)優越感から、ヴォランティア精神で、親切にアドバイスしているつもりなのである。

そして、そのアドバイスが間違っているのは、日本のごく一部を観察して、自分の価値観に都合よく結びつけて、いいことを思いついたことにうれしくなり、提案しているのである。

そんなことを自国の米国経済に提案しないじゃないか、無責任じゃないか、よその国で実験しやがって、と思うだろうが、彼らは米国でも実験することはやぶさかではないのだが、米国では一応社会、経済の全体像を知っていて、観察機会も多いからデータが多い、ケースも多いので、誤った提案は誤っていることに気づくのである。

自分のよく知らないことに対しては、いわば観光客気分で、親切に無邪気に、サンプル1、ケース1で、いいことを思いつき、気軽に言ってみるのである。

私はもちろんそんな一流経済学者ではないから、無邪気な政策提案を万が一したとしても誰も聞かないので、幸運なのである。

このエッセイで吠えて、読者に間違っていると指摘されるぐらいが関の山なのである。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

20190716issue_cover200.jpg
※7月16日号(7月9日発売)は、誰も知らない場所でひと味違う旅を楽しみたい――。そんなあなたに贈る「とっておきの世界旅50選」特集。知られざるイタリアの名所から、エコで豪華なホテル、冒険の秘境旅、沈船ダイビング、NY書店めぐり、ゾウを愛でるツアー、おいしい市場マップまで。「外国人の東京パーフェクトガイド」も収録。


プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。著書に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

ニュース速報

ビジネス

米株はほぼ横ばいで終了、米中合意受け一時最高値

ビジネス

米中合意受けドル売り、英与党勝利でポンド上昇=NY

ビジネス

米FRB当局者、経済は順調 金利据え置き容認

ワールド

米中が「第一段階」通商合意、関税発動猶予 米農産物

MAGAZINE

特集:進撃のYahoo!

2019-12・17号(12/10発売)

メディアから記事を集めて配信する「巨人」プラットフォーマーとニュースの未来

人気ランキング

  • 1

    共産党国家に捧げるジョーク:変装した習近平に1人の老人が言ったこと...

  • 2

    中国で焚書令、文化大革命の再来か

  • 3

    麻酔を忘れて手術された女性、激痛に叫ぶも医者が気づかない!?

  • 4

    習近平を国賓として招聘すべきではない――尖閣諸島問題

  • 5

    キャッシュレス化が進んだ韓国、その狙いは何だった…

  • 6

    熱帯魚ベタの「虐待映像」を公開、動物愛護団体がボ…

  • 7

    サルの細胞を持つブタが中国で誕生し、数日間、生存…

  • 8

    自殺した人の脳に共通する特徴とは

  • 9

    インフルエンザ予防の王道、マスクに実は効果なし?

  • 10

    ウイグル人と民族的に近いトルコはなぜ中国のウイグ…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 3

    熱帯魚ベタの「虐待映像」を公開、動物愛護団体がボイコット呼び掛ける

  • 4

    インフルエンザ予防の王道、マスクに実は効果なし?

  • 5

    中国で焚書令、文化大革命の再来か

  • 6

    ウイグル人権法案可決に激怒、「アメリカも先住民を…

  • 7

    次期首相候補、石破支持が安倍首相を抜いて躍進 日…

  • 8

    東京五輪、マラソンスイミングも会場変更して! お…

  • 9

    トランプ、WTOの紛争処理機能を止める 委員たったの…

  • 10

    共産党国家に捧げるジョーク:変装した習近平に1人の…

  • 1

    食肉市場に出回るペット 出荷前には無理やり泥水を流し込み...

  • 2

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

  • 3

    「日本の空軍力に追いつけない」アメリカとの亀裂で韓国から悲鳴が

  • 4

    元「KARA」のク・ハラ死去でリベンジポルノ疑惑の元…

  • 5

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 6

    文在寅の経済政策失敗で格差拡大 韓国「泥スプーン」…

  • 7

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 8

    殺害した女性の「脳みそどんぶり」を食べた男を逮捕

  • 9

    GSOMIA継続しても日韓早くも軋轢 韓国「日本謝罪」発…

  • 10

    日米から孤立する文在寅に中国が突き付ける「脅迫状」

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
「STAR WARS」ポスタープレゼント
ニューズウィーク試写会ご招待
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!