コラム

トランプおよびその他ポピュリストたちの罪を深くしているのは誰か

2017年01月21日(土)13時58分

 都知事の場合は、個人的な直観に基づくものであり、単純なイシューに絞って展開しているが、話が具体的すぎるだけに、トランプと違って(国境の壁とは何か、NAFTA見直しとは具体的にどこまでやるのか、ということに解釈の余地が十分あるから、部分的な成果で引きあげることが可能である)、最後の幕引きの場面が具体的に実現してしまうために、そこでは破綻は避けられず、自らを日々追い詰めていると言えるだろう。

 一方、社会への実際の悪影響という点からは、都が最小であろう。壮大なロス、エネロス、コスト、時間の浪費であることを除けば、実害はない。異常な無駄をしただけのことであって、破滅はしない。その意味で、実効性のある政策が何もない分、ポピュリズムの被害は三者の中では大きくないと言える。

 最も世界に深刻な影響を与える可能性があるのはトランプだ。米国は依然、世界における圧倒的な影響力を持つ。米国の安全保障、外交戦略の歪はたとえわずかでも、影響は計り知れず、歴史に傷跡を残す可能性がある。

ブレーンや自称インテリ

 アベノミクスの場合は、株価を一時的に盛り上げ、需要を先食いして、コストとリスクを先送りしているから、それらが実現する将来の被害は大きい。そして、さらに目に見えない大きなコストは、人々が、これで経済はうまくいっている、と安心してしまい、必要な構造転換、危機感が失われることだ。ただ、これはアベノミクス以前も同じことだから、財政破綻が起こるまで危機感は高まりようがないから、アベノミクスの問題ではない。しかし、問題は過剰な金融緩和で、これのリスク、コストは大きく、これがアベノミクスのコストと言えるだろう。日銀の金融政策であり、それは政府の政策ではない、ということであれば、日銀の異次元緩和による被害が深刻だ、ということになろう。

 ここの議論に象徴されるように、実は、ポピュリズムによる被害が大きくなる要因は、ポピュリストである政治家自身にあるのではない。権力にすり寄るブレーン、自称インテリたちの下心により、初めて実害が生じるのだ。ポピュリストも素手では世の中を悪くできない。

【参考記事】トランプに「屈服」したライアン米下院議長の不安な将来

 その意味で、アベノミクスはもっとも深刻な被害が知的に広げられた、と言える。ここでは、次にこの議論をしていきたい。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ米大統領、4日に関税率通知の書簡送付開始と

ワールド

米減税・歳出法案成立へ、トランプ氏が4日署名 下院

ワールド

フィリピンCPI、6月は前年比+1.4% 中銀に利

ワールド

緑の気候基金、途上国のプロジェクト17件に12億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    「コメ4200円」は下がるのか? 小泉農水相への農政ト…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 8
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 9
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 10
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story