最新記事
シリーズ日本再発見

「タイパ」に追われる現代人が忘れた、「緩む」ことの大切さ

2023年03月03日(金)11時00分
西田嘉孝
公園で休憩するビジネスパーソン

ときにはあえて情報から距離を置き、「緩む時間」を持つことが重要だ Day2505-Shutterstock

<現代を象徴するキーワードである「タイパ」。時間的な効率が最優先される社会において、現代人が知っておくべきリスクとは?>

最近、あちこちで耳にするようになった新しい言葉に「タイパ」がある。すでに日本では一般的に使われているようになっている「コスパ」が費用対効果を意味するコストパフォーマンスの略語であるのに対して、「タイパ」は時間対効果を意味するタイムパフォーマンスの略語だ。

国語辞典を発行する三省堂が選ぶ「今年の新語2022」では大賞を受賞。Z世代のトレンドとして注目を集め、最近では広くビジネスの世界で聞かれるようになったこの言葉は、「効率性」や「合理性」が何より重要とされ、それを追求することが美徳とされる今の時代を象徴する言葉と言えるだろう。

実際、タイパを追い求める見えない圧力を感じ、「何をするにも時間的効率を優先した行動や考え方を重視するようになった」と実感している人は少なくないだろう。企業や社会で進むDXやデジタルサービスの拡大で、多くの人が職場では大量の情報処理に追われ、食事中や束の間の休憩時間、通勤途中にもスマホ片手にニュースや動画をチェックする。いまや若い世代に限らず、中高年を含む多くのビジネスマンにとって、「タイパ」を重視した思考や行動は当たり前のものになっている。

さらにはプライベートにおいてもテレビ番組や映画などの動画を見る際に倍速再生が当たり前になり、若い世代を中心にTikTokのようなショート動画がバズり、YouTubeでは本編よりも切り抜き動画に需要が集まっている......。YouTubeではそうした風潮を受けて、2021年に60秒以内のショート動画に特化したサービスである「YouTubeショート」をスタート。パートナープログラムの改訂によって、2023年2月からは「YouTubeショート」のクリエイターも広告収入を得ることができるようになった。

いわば現代人の多くは、新たな情報や刺激に常に「飢えた」状態だ。情報が発信される速度はどんどん速くなり、それを処理し続けるために「タイパ」の重要性も増していく。

「頭」に支配されて暮らすことのリスク

とはいえ「タイパ」を最優先にして日々の生活を送っていると、当然ながら時間的・精神的な余裕は持てなくなる。合理性や効率だけを追い求めた時間の使い方には、どのような弊害があるのだろうか?

「コンピュータのように大量の情報を処理するためタイパに追われるような生活は、いわば『頭』だけに支配されて生きているようなもの」と話すのは、精神科医の泉谷閑示氏。泉谷氏は自らのクリニックで多くの患者の心のケアを行う傍ら、これまでに『なぜ生きる意味が感じられないのか』(笠間書院)、『「普通」がいいという病』(講談社現代新書)など多くの著書も出版してきた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中