最新記事
シリーズ日本再発見

ふるさと納税は2年で750%増、熊本の人口4000人の町が「稼げる町」に変わった理由

2021年04月14日(水)19時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

「小さな町ですから、どの会合に行っても同じ顔ぶれで、同じような話ばかり。観光協会でも、目新しい方向性や取り組みがなかなか出ず、議論はマンネリ化していました」

そして、平野氏は気付く。

「観光業以外の人たちも、悩みは私たちと同じだったのです。(中略)町のさまざまな声を救い上げて、解決まで並走してくれる組織が必要だと感じ始めていました」

取り組みは、まず観光業に関わる人々に南小国町の「あるべき姿」を話し合ってもらうことから始めた。あるべき姿、つまり会社にとってのビジョンだが、地域にとっても重要だ。

柳原氏はこの「あるべき姿」を見つけるプロセスに多くの時間を割いているという。公式な場だけでなく、町に出て住民への聞き取りを重ね、集めた情報を編集し、仮説をつくる。その仮説を改めて聞き取りをしたキーパーソンにぶつけ、情報の精度を上げていく。

このプロセスを何度も繰り返すことによって、多くの可能性を見つけることができた。

「南小国には小国杉というブランド杉がある。その杉林の景観はすばらしい」
「種類はそれほど多くはないけれど、おいしい高原野菜が獲れる」
「最近、キャンプ場や農家に泊まりにくる人が増えているようだ」
「満願寺温泉には"日本一恥ずかしい露天風呂"と呼ばれる温泉がある」

それまで南小国町の観光と言えば、「黒川温泉」と「そば街道に行って蕎麦を食べること」だけと住民は考えていた。このように次なるエンジンとなりそうなものを見つけられるのも、よそ者ならではの視点があるからだろう。

前述した通り、観光業はさまざまな要因に左右されやすい業態だ。一つの柱だけに絞るのは、事業として非常に危うい。それに、町が抱える課題の解決にはならない。

南小国町の美しい景観と人々の暮らしを観光資源に変えるためには、町の農業や林業をはじめとする多くの産業が連携し、町全体で稼いでいく必要があった。見つかった「あるべき姿」は、「町全体で稼ぐ」だった。

ふるさと納税は「町全体で稼ぐ」を体現する事業に

そして観光だけでなく、地域物産も加えた「両輪」で稼ぐために、DMO「SMO南小国」は生まれた(SはSatoyamaの頭文字だ)。

柳原氏は、まず観光協会と物産館を融合する提案を行う。物産館は長年赤字を出し続けていた問題組織だ。

ただでさえ異なる組織を一緒にするだけでもハードルが高いのに、赤字続きの組織がDMOの足を引っ張るのではないか――。設立委員の中からも心配の声が上がった。

しかし柳原氏は、それぞれの組織が持つ「機能」に着目していた。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏「良識働けば協議で戦争終結」、 交渉不調

ワールド

米ポーランド首脳会談、ウクライナ情勢など巡り協議へ

ビジネス

米労働者の家計不安増大、8割近くが経済に懸念=米銀

ワールド

訂正-プーチン氏への「メッセージなし」、決定を待つ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中