最新記事
シリーズ日本再発見

平成30年間で変わった、人の趣味嗜好と街の光景

2019年04月22日(月)11時00分
高野智宏

在来線のボックス席、会社の自分のデスク、飛行機の中でも

平成の初期と「令和」へと移り変わろうとする現在の日本を比べて、最も変わった光景のひとつは、街中の喫煙風景かもしれない。

かつては歩きたばこが当たり前で、街中にはあらゆる所に灰皿が設置されていた。駅のホームはもちろん、在来線でもボックス席には窓下に灰皿が設置されていたし、飲食店にも禁煙席など用意されていなかった。驚くのは、病院にも喫煙所があったことだ。

「僕が証券会社に入社した頃(1988年=昭和63年)は、まだ会社でも自分のデスクで吸えましたね。印象的だったのは、飛行機の座席で吸えたのが、徐々にエコノミーの後方に喫煙エリアが設けられるようになって、その後、2000年前後に飛行機が完全禁煙になったこと」と、前出の伊藤氏も苦笑しながら振り返る。

JTの「全国たばこ喫煙者率調査」によれば、1989年(平成元年)の喫煙率は男性で61.1%、女性で12.7%。男性は半数以上が喫煙者だ。あれから30年。度重なるたばこ価格の上昇や健康意識の高まりもあってか、喫煙者率は年々低下している。昨年(平成30年)の同調査では男性が27.8%と、調査以降で初めて3割を切った。

街中や公共・商業施設における喫煙環境の変化も、喫煙者率減少の一因かもしれない。だがそれは「分煙化」が進んでいると捉えられなくもない。多くのレストランやカフェで喫煙室や喫煙エリアが設けられるなど、喫煙者と非喫煙者が共存しやすい社会へと変わってきているのだ。

「仕事で外出したとき、吸える場所をなかなか見つけられなくて困ることもありますが、昔みたいにどこでも吸える社会に戻ってほしいとは思わない。歩きたばこもしなくなりました」と、喫煙者である東京都内の会社員(42歳)は話す。

環境だけなく、喫煙スタイルにも大きな変化が訪れた。2014年(平成26年)から登場し始めたPloom(プルーム)、IQOS(アイコス)、glo(グロー)といった加熱式たばこの台頭だ。

加熱式たばことは、たばこ葉を燃焼するのではなく、加熱することでニコチンを含んだ蒸気を発生させ、それを喫するというもの。俗に言う「たばこにおける健康被害」の原因は、たばこ葉を燃焼することで発生する煙に含まれる有害物質(健康懸念物質)だ。燃焼しない加熱式たばこの場合、その有害物質がIQOSやgloでは90%以上、Ploom TECHとその最新モデルであるPloom TECH+では99%がカットされるという。そんな加熱式たばこの利用者はすでに、全喫煙者の2割以上を占めるようになっている。

技術革新により、加熱式たばこのデバイスは年々進化している。各社とも有害物質の発生をさらに抑制し、一方で喫味はより満足度の高いものとなっていく。となれば、喫煙者の紙巻きたばこから加熱式たばこへの移行は、これからも加速してくのだろう。前出の会社員も加熱式たばこの愛好者で、「髪や服ににおいがほとんど付かないのがいいですね。ほかの人に迷惑も掛けたくないですし、紙巻きたばこに戻ることはないと思う」と話す。

「分煙化」に加え、加熱式たばこの普及も、喫煙者と非喫煙者の共存に大きく寄与していく可能性がある。「煙・におい」というたばこの印象も、加熱式たばこによって変わっていくのかもしれない。

japan190422heisei-4.jpg

Christian Ouellet-iStock.

◇ ◇ ◇

スポーツ、メディア、そして、たばこ――。いずれも平成が始まった当初からは想像できないほど、この30年間で嗜好、環境、スタイルが大きく変化した。間近に迫った「令和」時代には、いかなる変化が待ち受けているのか。その変化が決して後ろ向きではなく、前向きでポジティブな変化であることを願ってやまない。

japan_banner500-season2.jpg

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 2
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 6
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 7
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中