最新記事
シリーズ日本再発見

平成30年間で変わった、人の趣味嗜好と街の光景

2019年04月22日(月)11時00分
高野智宏

独特の折りたたみ方をした朝刊、発売されたばかりの漫画雑誌

変わりゆく趣味嗜好と日本の光景――例えば、新聞や書籍、雑誌や漫画といった紙媒体もそのひとつだ。

かつて通勤電車の中では、サラリーマンたちが苦心の末に編み出した独特の折りたたみ方をした朝刊に目を通し、学生や若いサラリーマンは発売されたばかりの漫画雑誌を、われ先にと競うように読んでいた。しかし、その光景も今や昔。性別・世代を問わず、今その手に握られているのがスマートフォンであることは言うまでもない。

紙の書籍と雑誌の市場規模がピークを迎えたのは1996年(平成8年)で、その額は2兆6563億円だった。ちなみに「週刊少年ジャンプ」が前人未到の発行部数653万部を記録したのも1995年(平成7年)のこと。『スラムダンク』と『ドラゴンボール』の2大看板に加え、『るろうに剣心』や『ジョジョの奇妙な冒険』など多くの人気作が連載されていた黄金期だ。

対して、昨年(平成30年)の出版市場は1兆2800億円台と1996年の半分以下になり、なかでも雑誌(漫画の単行本を含む)は前年比約10%減かつ21年連続の前年割れと、雑誌離れが顕著となっている。そんな状況について、30年以上のキャリアを持つ雑誌編集者、吉岡克洋氏(仮名)はこう語る。

「僕が本格的に編集者やライター活動を始めたのが、バブル真っ只中の1987年(昭和62年)頃。当時、編集プロダクションを経営し、ムック本の制作などを請け負っていました。ある車のイメージブックを作ったのですが、その制作費が3000万円ということがありました。たぶん、今なら同じボリュームと内容でも1000万円で請け負えるでしょう。また、学生時代からある編集部でバイトしていましたが、バイトの分際でタクシーチケットを持ってました。そんな時代でしたね(笑)」

「当時、雑誌は広告に頼らず販売部数で食べられていた」と振り返る吉岡氏。確かに20~30年前は、車からファッション、デート、夜遊びまで、雑誌が提案する「マニュアル」に誰もが頼っていた。

しかし、90年代中盤からインターネットが爆発的に普及し、数多のウェブメディアが台頭。それらが(記事のレベルや質はともかく)雑誌同様の情報を無料で大量に提供し始めた結果、多くの雑誌が存在意義を失ってしまった。

「紙媒体が厳しい時代であることは間違いない。ただ、先ほどバブル当時は販売部数で食べられたと言いましたが、バブル崩壊後は広告収入が雑誌を支えています」と、吉岡氏は説明する。

「ゆえに雑誌は純粋な広告以上に、媒体のテイストに合わせて制作するタイアップページを充実させ、企業もより確実にターゲットにリーチできる媒体に出稿する傾向を強めている。特定の年齢や年収の読者層を対象としたクラスマガジンや、センスの良い大人に向けたライフスタイル誌がその象徴です」

通勤電車の中で、誰もが新聞や雑誌を読むような時代はもう戻ってこないだろう。だが将来――もしかしたら「令和」の間に――、紙媒体は駆逐されてしまうのだろうか。これについても、現場をよく知る吉岡氏に聞いてみた。

「そうであるなら、テレビが普及した時点で映画も駆逐されたでしょうし、新聞や雑誌も同じこと。ネットが広告や販売のシェアを奪っているのは事実ですが、既存メディアもウェブ版を作って広告収入を得ている側面もある。また、紙媒体に特有のインクや紙の香り、ページを捲るという行為が好きという読者も少なからず存在します。その比率はともかく、双方のメディアが競争しつつも共存していくんじゃないでしょうか」

japan190422heisei-3.jpg

recep-bg-iStock.

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米人員削減、11月は前月比53%減 新規採用は低迷

ビジネス

英中銀、プライベート市場のストレステスト開始 27

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ウクライナ南部に夜間攻撃、数万人が電力・暖房なしの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 3
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 4
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中