最新記事
シリーズ日本再発見

洋食は「和食」なのか? NYに洋食屋をオープンした日本人の挑戦

2017年06月20日(火)11時02分
小暮聡子(ニューヨーク支局)

「バー・モガ」のエグゼクティブシェフ、秋山剛徳 Satoko Kogure-Newsweek Japan

<オムライス、ハンバーグ、エビフライ、コロッケ......どこか懐かしい日本の「洋食」だが、これって日本料理なの?>

「人種のるつぼ」と呼ばれるニューヨークには世界各国の料理が集結し、そのジャンルも高級料理から家庭料理までと幅広い。大人気の「和食」ひとつをとっても、寿司屋からうどん屋、おにぎりショップからラーメン屋まで多種多様だ。
 
そんなニューヨークに今年4月、日本人シェフによる「洋食屋」が誕生した。オシャレなウエストビレッジ地区にオープンした、赤煉瓦づくりの「バー・モガ」だ。和食レストランがひしめくニューヨークでも、「日本の洋食屋」は初めてかもしれない。

扉を開くと大正ロマンを彷彿させるモダンな空間が広がり、メニューにはオムライスにハンバーグ、エビフライにコロッケ、グラタンなど、どこか懐かしい「洋食」ばかりが並ぶ。

いわゆる「洋食」とは、明治末期から大正時代にヨーロッパから伝わった西洋料理が日本で独自の進化を遂げ、大衆に普及した日本式西洋料理と定義される。この、「ヨーロッパ生まれ、日本育ち」の洋食は、同じようにヨーロッパの文化を多く受け入れてきたアメリカではどう認識されるのだろう。

「バー・モガ」のエグゼクティブシェフで、ニューヨークで和食居酒屋「SakaMai」やカレーショップ「カリー・ボウ」などを共同経営する秋山剛徳(44)に話を聞いた。

――バー・モガのコンセプトは?

もともとは、お店の内装を大正時代に流行ったモダン・ガール(モガ)やモダン・ボーイ(モボ)をイメージしたものと決めて、名前を「バー・モガ」にした。と同時に、その雰囲気にあった食事ということで、昔懐かしい感じの洋食を出すことにした。

洋食が日本で普及し始めたのは明治~大正時代だ。もちろんその当時を再現した料理ではないのだが、日本の洋食屋さんで出されているようなクオリティの高い洋食というのをこっちではあまり見かけなかったので、逆にニューヨークに持ってきたら新しいのかな、と。

と言っても、奇をてらったメニューではなく、ストレートな洋食を作りたかった。僕自身、洋食というのは食べるのも作るのも昔から好きだったので。

――お店で出している洋食メニューは、ニューヨークでどう認識されるのか。例えば「ハンバーガー・ステーキ」は?

英語で「ハンバーガー・ステーキ」、日本で言うところの「ハンバーグ」は、もともとドイツの都市「ハンブルグ」にちなんだ言葉だ。ドイツ人によってアメリカに伝えられ、「ハンバーガー(ハンブルグ風)・ステーキ」と呼ばれるようになったという。

アメリカにも「ハンバーガー・ステーキ」という言葉自体は今もあるので、おそらくメニューとしても探せばあるのだろうが、大抵はパンに挟んだあの国民食の「ハンバーガー」になってしまう。バンズにはさまずハンバーグとしてそのまま出すというのは、僕はあまり見たことがない。

今回、アメリカ人のスタッフたちに「ハンバーガー・ステーキ」を出そうと言ったとき、彼らにはピンとこなかった。「それがうまくいくとは思えない」と言われた。理由は、「パンに挟まっていないから」。

japan170620-1.jpg

「バー・モガ」のハンバーグ Satoko Kogure-Newsweek Japan

アメリカで日本のハンバーグに近いのは、もしかすると「ミートローフ」かもしれない。こっちのハンバーガーに使うミートパテは何も混ぜないでそのまま形を作って焼くことが多いが、日本のハンバーグは卵やパン粉などつなぎ的なものを入れて、ちょっと柔らかく仕上げようとする。

例えばハワイ料理には「ロコモコ」というのがあって、ご飯の上にハンバーグと目玉焼きを乗せてグレイビーソースをかけるのだが、日本のハンバーグに近い。でもあれのルーツは日本にあるのではないかと思う。

【参考記事】アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国万科、債権者が社債償還延期を拒否 デフォルトリ

ワールド

トランプ氏、経済政策が中間選挙勝利につながるか確信

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中