最新記事
シリーズ日本再発見

夏場は6時間待ちも! 日本で今「かき氷」がブームの理由

2017年05月31日(水)13時30分
廣川淳哉

「和キッチンかんな」の一番人気は「いちご牛乳」(750円)。国産のいちごを使い、ジャムに近い製法で作った果肉が残るシロップに、練乳と牛乳を混ぜて煮詰めたシロップを合わせた Photo:廣川淳哉

<ここ数年、1年中かき氷を提供する店が増えつつあるが、なぜこれほど人気なのか。人気の秘密は、インスタグラムと濃厚なシロップだった>

東京・世田谷にあるコーヒー店で一息ついていたところ、窓の外の行列が気になった。その先には「天然氷」と書かれている。かき氷だ。

ここ数年、1年中かき氷を提供する店が増えつつあるが、かき氷が今、これほどまでに人気を集める理由とはなんだろう。都内の人気店を訪ね、ブームの理由を探った。

世田谷で見た行列の先にあったのは、かき氷を出す和食店「和キッチンかんな(以下、かんな)」だ。夏場は6時間待ちもザラ。繁忙期には店頭で名前を記入する記帳式で予約を受け付ける。昼に名前を書き込めば、夕方ようやく、念願のかき氷にありつけるほどの盛況ぶりだという。

かんなでは「いちご牛乳」や「抹茶」といったかき氷の定番メニューや、「あずきマスカルポーネ」「ティラミス」など変わり種のメニューを食べられる。

現在の場所に移転したのが2013年。店主の田中完児さんはもともと、10年ほど前に東京・祐天寺で和食店を営んでいた。当時、定食に付けるデザートとして着目したのがかき氷だった。昔からある日本の風物詩でありながら、まだまだ手を加え、改良の余地があると感じたからだ。

試行錯誤の末に生まれたのが、かんなのかき氷の特徴であり、他の人気のかき氷店でも見られるようになった、濃厚な手作りシロップとふんわり食感の氷の組み合わせだ。かんなの「ティラミス」は、その頃からある人気メニュー。そこから、「あずきマスカルポーネ」などのさらなるオリジナルシロップが派生していった。

冬でも週末は1日200杯売り上げる

提供するかき氷が徐々に話題を集め、現在の場所に移転してからは、1年を通じてかき氷を出す店として広く知られるようになった。冬場でも週末は1日200杯、平日でも100杯を売り上げる。季節食材を使うなど、毎月、新フレーバーを開発し続ける田中さんは、かき氷人気について「クリーミーなシロップとふっくらした氷の味わいと、インスタ映えすることも大きい」と言う。

味の面で大切にしているのが、素材の追求に加えて「シロップと氷のバランス」だ。重すぎても、味気なさすぎてもいけない。両者のバランスの追求の一端は、シロップのかけ方にも現れている。

昔ながらのかき氷は、氷の上から下まで同一のシロップをかけたものが多いが、かんなでは、例えば「あずきマスカルポーネ」なら、きなこ味のシロップを使い、味に変化を付けている。

japan170531-2.jpg
japan170531-3.jpg

「あずきマスカルポーネ」(950円)は、食べ進めるうちに味の変化があるよう、きなこのシロップをミックス。夏場のフレーバーは「甘そうに見えるが、後味が重くならないものが人気」(田中さん) Photos:廣川淳哉

かんなでは「定番シロップ」は750円、変わり種の「限定シロップ」は950円、いずれも250円追加すれば、氷を天然氷に変更できる。

天然氷とは、屋外の人工池などで冬場に作っておく、素材も製法も天然の氷のこと。需要が高まる季節まで氷室に保管したあと出荷される天然氷は希少性が高く、扱う店舗には限りがある。かんなでは、夏の時期だけで1500貫(5625キロ)の天然氷を使うが、それでも氷が足りないため、市販の氷と天然氷を併用しているという。

【参考記事】アメリカ人に人気の味は「だし」 NYミシュラン和食屋の舞台裏

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報

ビジネス

米中堅銀、年内の業績振るわず 利払い増が圧迫=アナ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中