コラム

自己中の為替介入は命取り

2010年09月16日(木)12時06分

 政府・日銀の為替介入で、円は1日で1ドル=83円台から85円台に急落した。市場の意表を突き、しかも介入で売った円を回収(不胎化)せずそのまま市場に残してだぶつかせておくやり方を、評価する声も聞かれる。

 一方で、米議会やユーロ圏の財務当局から即座に抗議の声が上がったことは要注意だ。かつてシティバンク東京支店のチーフ為替ディーラーを務めた日本トーマスモア・コンサルティング社の板垣哲史代表は、「自己中」介入は身を滅ぼすもとだと言う。欧米が抗議するのは、それだけ経済の状態が悪いから。そんなときに日本が円を安くして相手の輸出競争力を削ぐようなことをすれば、1ドル=50円ぐらいの報復を受けかねない。何より、いくら円安にして輸出産業を救おうとしても、「アメリカ経済、ユーロ経済が立ち直らないことには根本解決にならず、問題を先延ばしするだけに終わってしまう」。

 欧米諸国は、大規模な不良債権の買い取りなどでほとんど資金的な余裕がない。その点日本は、アメリカ、ヨーロッパを窮地から救って世界恐慌を食い止める余力がまだある。そんなバカな、と思うが、板垣氏によれば、不動産などの非金融資産も含めれば日本政府にはまだ230兆円の純資産があるという。

 さらに板垣氏は、欧米が嫌がらない究極の円高対策を提唱する。


 米国、EUに特使を派遣し、10年満期の米国債を円建てで100兆円、ユーロ債を円建てで30兆円発行すると持ちかける。巨額のサムライ債(円建て外債)の発行によって為替市場では円売りドル買い、ユーロ買いの嵐がおき、数カ月で90円台回復は必然となる。少子高齢化が進む日本の経済、財政の将来の見通しは厳しい。10年後に1ドル=120円になれば、欧米はより少ない自国通貨で円を返せるわけだから、この話に乗らないはずはない。


 もちろん、欧米諸国が発行したサムライ債は日本も購入して資金調達のお役に立つことが前提だ。景気対策ならこっちが助けてもらいたいぐらいなのに、という発想は転換する必要があるのだろうか。

──編集部・千葉香代子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 9
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story