コラム

「レクサス買うな」への疑問

2010年04月16日(金)01時16分

 米消費者情報誌「コンシューマー・リポート」のウェブサイトをのぞいてみたら、なかなか面白い。いや、トヨタのSUV「レクサスGX460」(2010年型)に安全性の問題があるとして「買ってはいけない」と警告した4月13日の記事のことではない。その記事に対する読者のコメントが面白いのだ。

 コメントはざっと50件以上あるが、「公平な評価をありがとう」という肯定的な書き込みだけではない。「コンシューマー・リポートよ、恥を知れ」「これほど偏った走行試験は初めて見た」「GM・フォードの陰謀か」など、意外と批判も多い。中には「ホンダ!ホンダ!ホンダ!」とか「ワーオ、あんなふうにスピンするのか、やってみなきゃ」といった明らかなおふざけもあり、そこらの投稿サイトと変わらない(管理人は本当に目を通しているのか?)。

 一方で、素直にうなずけるコメントも少なくない。問題のレクサスを同誌スタッフが運転する映像をサイトで見て、「これって何が問題なの?」「高速でハンドルを切ったらスピンするのは当たり前」などと書いた人が何人かいた。

 確かに映像を見ると、高速で走行中に暴走族のようにタイヤをきしませながら急ハンドルを切っているため、車の後部が横滑りしている。同誌によると、こうした状況で横滑り防止装置が作動するのが他車より遅く、車輪が縁石に当たるなどして横転し、死亡事故につながる恐れがある。それが「買ってはいけない」理由だという。

 それは違うんじゃないの、と書いた投稿者の気持ちがよく分かる。そもそも、他車と比較したという割には他車の映像はないし、横滑り時間の比較数値もない。何キロで走行したら問題の現象が起きるのかが示されていないので、実際にどの程度起こり得るかも素人には判断できない。映像のような荒い運転を非現実的と思う人は多いだろう。

 もちろん、専門家の見立ては素人とは違うはずだ。この車をテストした同誌の自動車エンジニア4人全員が同じ問題を指摘。同誌が評価対象とする95台のSUVのうちGX460ほど横滑りした車はほかにないという。

 コンシューマー・リポートは非営利団体が発行。広告を一切載せず、中立的な立場から専門家が製品を評価することで高い支持を得ている。トヨタが同誌の発表を受けてGX460の販売を即座に一時停止したことからも、同誌の影響力の大きさがうかがえる。
 
 そんな有力誌の不買勧告に対し、外部の専門家は「普通の人が運転するなら全く心配ない」「『買うな』は大げさ」と自信を持って批判できるが、素人は素朴な疑問を投げ掛けるくらいしかできない。
 
「消費者のために」を標榜する雑誌が、しかも異例の不買勧告まで出すのであれば、一般の消費者にもっと分かりやすい形で発表すべきではなかったか。せめて他車との比較映像と走行試験時のスピードを公表しておけば、少しは納得感があったかもしれないのに。

【追記】コンシューマー・リポートが読者の疑問に答えるためにその後掲載したQ&Aによると、試験時の速度は60マイル(約100キロ)で、カーブの手前でアクセルを踏むのをやめたという。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story