コラム

ギリシャ危機と古事記の関係

2010年03月03日(水)11時00分

 ギリシャの財政危機に関する海外メディアの記事を読んでいると、ギリシャ神話にまつわる表現に出くわすことがある。経済の小難しい話の合間に神話の世界を垣間見るのは、ちょっと楽しい。

「あなたは山に岩を持ち上げようとするシシュフォスになった気分か、それとも牛小屋を掃除しようとするヘラクレスか」。これはドイツのシュピーゲル誌記者がギリシャのパパンドレウ首相に投げ掛けた質問だ。

 狡猾なシシュフォス王は地獄に落とされ、岩を山頂まで押し上げるよう命じられるが、あと一息というところで岩が下まで転がり落ち、一からやり直すという苦行を永遠に繰り返す。怪力のヘラクレスはギリシャ神話最大の英雄だ。

 パパンドレウはこう答えた。「シシュフォスの気分ではない。それは私の哲学とは違う。だがこれは確かにヘラクレスの仕事(Herculean task)だ」。Herculean taskはヘラクレスの力を必要とするような非常に困難な仕事のこと。この表現は英文記事によく出てくる。

 財政赤字がGDPの13%でユーロ圏最悪の国家財政を、対外的な公約どおり12年までに3%以下に減らすのは、確かに並大抵のことではない。先週はギリシャ全土で約300万人が参加する大規模ゼネストが行われるなど、政府の緊縮策に対する国民の反発も強い。
 
「何よりも私はオデュッセイアを思い起こす。ホメロスの叙事詩では、彼らは困難な旅の間に変身していく......われわれも目的地に着く頃には違う人間になっているだろう」

 トロイ戦争後、英雄オデュッセウスは10年間エーゲ海をさまよい、多くの危機を乗り越えて故郷にたどり着く。首相もなかなかうまい例え話をするではないか。
 
 ギリシャ神話は、古事記が描く日本神話と共通点が多いと言われる。例えば、高天原という天上の世界を治める天照大神(あまてらすおおみかみ)の役割は、聖なるオリュンポス山を拠点とする最高神ゼウスとそっくり。そして今のギリシャと日本にも大きな共通点がある。巨額の財政赤字と累積債務だ。

 いつか日本がギリシャのような財政危機に陥れば、海外メディアは古事記のエピソードを引き合いに出して時の首相にこんな質問をぶつけるかもしれない。「あなたは大蛇ヤマタノオロチのような恐ろしい財政危機を退治するスサノオノミコトになった気分でいるのか。それとも天照大神がお隠れになって真っ暗な日本経済の『天の岩戸』を開くため、恥も外聞もなく裸踊りをするアメノウズメの心境か」

──編集部・山際博士

このブログの他の記事も読む

プロフィール

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英総合PMI、12月速報は52.1に上昇 予算案で

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story