コラム

UNRWA地下にハマスのトンネル網があったとしてもイスラエルの免責にはならない理由

2024年02月14日(水)17時40分

「テロリスト」と呼ばれないテロリスト

「テロリストが相手なら人権を無視しても問題ない」と思われやすいが、その呼称には政治的判断が作用しやすい。

1940年代後半からアジアやアフリカの各地では植民地支配に抵抗する勢力が台頭したが、その独立運動の多くは当時「支配する側」だった先進国で「テロリスト」と呼ばれた。

現代のパレスチナに関していえば、先進国はイスラエルの民間人を殺傷するハマスを「テロリスト」と呼ぶが、その一方で一般ムスリムまでも殺傷するユダヤ人入植者やイスラエル極右を「テロリスト」とは呼ばない。

国連人道問題調整事務所(OCHA)によると、ヨルダン川西岸では10月7日のハマスによる奇襲攻撃以前、2022年から2023年9月までの間に、入植者(その多くはイスラエル人極右)による襲撃事件が多発し、1100人以上のパレスチナ人が土地を追われていた。

これも立派なテロのはずで、民間人の人質をとったハマスとの間に大きな差はいが、当然のようにイスラエル治安当局はほとんど取り締まっていない。

こうしてみた時、UNRWAの「トンネル」は重大な問題であるとしても、それでイスラエルが免責されるわけでないことだけは確かなのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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