コラム

共和党支持者がバイデンを後押し? 「ウクライナ支援を減らすべき」と「イスラエル支援はそのまま」が併存する米世論

2024年01月15日(月)20時25分
ホワイトハウス

ホワイトハウスに翻る星条旗 Andrea Izzotti-Shutterstock

<アメリカ世論に見られる「ねじれ」には4つ理由がある>


・アメリカでは「ウクライナ支援が多すぎる」という世論が広がっている一方、ガザ攻撃を続けるイスラエルへの支援には肯定的な意見が目立つ。

・この'ねじれ'には主に4つの理由があり、そこには戦闘が続く期間、支援額、アメリカ社会での発言力、支持政党ごとの違いがある。

・リベラル派にはウクライナ支援に、保守派にはイスラエル支援に肯定的な意見が目立ち、この食い違いが世論全体の'ねじれ'を生む一因になっている。

アメリカではウクライナとイスラエルに対する温度差が浮き彫りになっている。この大きな'ねじれ'は、より小さな'ねじれ'が積み重なった結果である。

アメリカ世論の'ねじれ'

世論調査会社ギャロップは昨年11月、アメリカでの調査で「現状のウクライナ支援が多すぎる」という回答が41%だったと発表した。これは「適切な量(33%)」、「少なすぎる(25%)」を上回った。

240113RTSimage-1705051926604_720_401.jpg

ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年2月以来、「多すぎる」が一位になったのは初めてだ。

その増加ペースは加速している。昨年6月段階で「多すぎる」は29%だったが、半年もたたない間に10ポイント以上も上昇した。

このようにウクライナ支援に消極的な意見が増える一方、アメリカではイスラエル支援に好意的な意見が目立つ。

同じくギャロップは1月5日、「現状のイスラエル支援は適切な量」という回答が38%と発表した。これは「多すぎる(36%)」、「少なすぎる(24%)」を抑えて1位だった。

240113RTSimage-1705051947268_720_411.jpg

ガザ攻撃による民間人の犠牲はアメリカでも大きな批判を招いている。そのため「多すぎる」との差はわずかだ。ただし、同じ調査によると、「少なすぎる」という回答は前回2006年の11%と比べて急増していて、イスラエル支援への根強い支持もうかがえる。

この傾向はギャロップ以外の世論調査でもほぼ同様である。

'ねじれ'はなぜ生まれたか

アメリカでは一時より低下したとはいえインフレ率が3%を超えていて、生活不安の払拭にはほど遠い。そのため外国への支援そのものに消極的な論調が生まれることは不思議でないとしても、「ウクライナ支援を減らすべき、イスラエル支援はそのまま」の温度差はなぜ生まれたか。

そこには主に4つの理由があげられる。

240113RTSimage-1705052655144_720_464.jpg

第一に、期間の違いだ。ウクライナでの全面衝突が2年近く続き、戦局が一進一退を繰り返していることは、厭戦ムードをより強くしやすい。

第二に、支援額の多さだ。バイデン政権は昨年10月、1050億ドルの支出を議会に求めたが、このうちウクライナ支援は600億ドル、イスラエル支援は140億ドルと大きな差があった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反落、朝高後は利益確定 米FOMC前で

ワールド

欧州企業、中国供給網の多角化を加速=商工会議所

ビジネス

午後3時のドルは156円後半で小動き、米FOMC前

ビジネス

アクセンチュア、アンソロピックと提携拡大 従業員A
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 6
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story