コラム

極右がいまさら「ユダヤ人差別反対」を叫ぶ理由──ヘイトを隠した反ヘイト

2023年11月21日(火)17時05分
マリーヌ・ルペン

ユダヤ人差別に抗議するデモに参加した「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首(写真は10月6日撮影) Obatala-photography-Shutterstock

<イスラエルとハマスの戦闘が激化するなか、欧州の極右政治家による「ユダヤ人差別反対」アピールが盛んになっている>


・イスラエルとハマスの戦闘激化にともない、欧米ではムスリムとともにユダヤ人へのヘイトが増えている。

・この状況で、これまで移民反対を掲げてきた多くの極右政党は「ユダヤ人差別反対」を鮮明に打ち出している。

・その理由には「共通の敵はイスラーム」というイメージ化に加えて、イスラエルの占領政策が極右にとって一種の理想形であることがあげられる。

これまで人種差別的とみなされてきた欧米の極右は、今や熱心にユダヤ人差別反対を叫んでいる。もっとも、それは反ヘイトに舵を切ったというより、異人種・異教徒との共存を否定する論理の裏返しである。

デモ参加を断られていた極右

パリでは11月12日、10万人以上が参加してユダヤ人差別に抗議するデモが行われた。

イスラエルとハマスの衝突の激化にともない、欧米ではムスリムだけでなくユダヤ人に対するヘイトクライムが急増している。

このうちユダヤ系に関しては、例えばアメリカのユダヤ系団体「名誉毀損反対同盟」によると10月7日からの1ヵ月間だけで、ヘイトメッセージ、嫌がらせ、器物損壊、襲撃などが832件にのぼった。これは前年の同じ時期と比べて315%の増加だった。

ヨーロッパでユダヤ人人口が最大のフランスでも同時期、1000件以上の反ユダヤヘイトが報告された。

パリのデモはこれらに抗議するものだった。

ただし、ここで注目すべきは、このデモに「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首が参加したことだった。

ルペン率いる国民連合は移民排斥を訴える、ヨーロッパを代表する極右政党として知られる。ユダヤ人コミュニティともこれまで摩擦が絶えなかったため、ルペンのデモ参加に関して他の政党が拒否反応をみせただけでなく、フランス・ユダヤ人団体評議会は「歓迎されないだろう」と述べ、暗に拒絶していた。

イメージのソフト化を目指す極右

国民連合は、1972年に生まれた国民戦線を前身とする。現在のルペン党首の父親で国民戦線の生みの親ジャン=マリー・ルペンは第二次世界大戦中のホロコーストを'些細なこと'と発言して罰金刑に課されたことがある。

現在のルペン党首は「差別主義」の批判を払拭するため、父親より露骨な発言を控えてイメージのソフト化を進めてきた。

それでも2017年、「フランスにホロコーストの責任はない」と主張してユダヤ人コミュニティからブーイングを招いた。この年、オランド大統領(当時)はドイツに占領されていた大戦中の1942年、フランス警察が1万3000人以上のユダヤ人を狩り出してナチスに引き渡した問題について謝罪していた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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