コロナワクチン「特許放棄」の現実味──突き上げる途上国、沈黙する先進国
これに対して、多くの知的財産権を既得権として抱える先進国は総じて消極的だ。
実際、コロナワクチンをすでに開発した国、とりわけ欧米で主流になった新技術mRNAワクチンの開発に成功した国にとって、ワクチンはいまや「ドル箱」でもある。例えば、ファイザーのコロナワクチン関連の売り上げは、今年上半期だけで113億ドルにのぼった。
バイデン政権の打ち上げ花火
もっとも、欧米でもワクチンの知的財産権の放棄に前向きな議論がないわけではない。今年5月のWTO会合の直後、アメリカのキャサリン・タイ通商代表は「知的財産権の放棄を支持する」と表明し、国内外に大きな衝撃が走った。
These extraordinary times and circumstances of call for extraordinary measures.
— Ambassador Katherine Tai (@AmbassadorTai) May 5, 2021
The US supports the waiver of IP protections on COVID-19 vaccines to help end the pandemic and we'll actively participate in @WTO negotiations to make that happen. pic.twitter.com/96ERlboZS8
ところが、今回のG20でこの問題が議論されることはほとんどなかった。WTOでこの問題を提起したインドや南アフリカだけでなく、「世界最大の開発途上国」を自認し、開発途上国の味方を演じたい中国政府が賛成を表明した一方、アメリカをはじめほとんどの先進国は沈黙した。
中国包囲網を形成したいバイデン政権は、「知的財産権の放棄を支持」でコロナワクチンの問題で途上国に配慮しているポーズを示したかったのかもしれない。また、中国を念頭に連携を深めるインドが「特許放棄」の旗頭になっている以上、全く無視することも難しかったのだろう。
しかし、知的財産権を放棄した場合、それが中国やロシアにとって、いわば棚ぼたになることも十分考えられる。それだけでなく、この問題でファイザーやジョンソン・アンド・ジョンソンといった大手医薬品メーカーが政権批判キャンペーンをネット上で展開するなど、強い逆風にさらされている。
そのため、バイデン政権は打ち上げ花火を上げるだけにとどまったといえるが、その打ち上げ花火が不発であるなら、かえって信頼を損なう。G20首脳会合で、企業課税の強化でリーダーシップを発揮して国際的な評価をあげたバイデンだったが、この点においてポイントは伸びなかったといえるだろう。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
※筆者の記事はこちら。
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