コラム

2022W杯カタール招致をめぐる情報戦──暗躍するスパイ企業とは

2021年11月25日(木)14時35分
W杯カタール大会開幕1年前

カタール大会開幕まで1年の記念イベントに集まった人々(2021年11月21日) Ibraheem Al Omari-REUTERS


・来年開催予定のW杯カタール大会の開催地決定のプロセスで、対立候補の動向を知るため、カタールがスパイ活動をしていたと報じられた。

・それによると、カタールに雇われたCIA元職員がFIFA関係者などにハッキングなどを仕掛けていたという。

・こうしたスパイ企業の活動は他の国でも見られるようになっており、諜報技術の流出といった弊害を生みかねない。

2022年開催予定のサッカーW杯の招致レースで開催権を勝ち取ったカタールが、情報収集のためスパイを用いていたと報じられたことは、スパイ企業が暗躍する世界の一端に光を当てるものである。

スパイ疑惑のインパクト

米AP通信は11月23日、カタールがサッカーW杯招致競争で対立候補の動向を探るためスパイを用いていたと報じた。アラビア半島にあるカタールは、2022年大会の開催国に決まっているが、2009年から2010年にかけて行われたその選定プロセスで違法な情報収集が行われたというのだ。

スパイ行為は国際サッカー連盟(FIFA)の規約で禁じられているため、これだけでも問題なのだが、そのうえAPの独自調査で、そのスパイが米中央情報局(CIA)の元職員だったと特定されたことがアメリカでの関心をさらに高めた。

CIAは世界にその名を知られる諜報機関で、本来はアメリカの安全保障や外交にかかわる情報の収集・分析が主な仕事だ。

その元職員ケビン・チョーカーは5年間CIAに勤務した後、リスクマネジメント企業グローバル・リスク・アドバイザー(GRA)を立ち上げた。APが入手したGRAの内部資料によると、その顧客であるカタール政府は招致レースに関連して9年間で3億8700万ドルを投入していたという(このうちGRAの報酬がいくらだったかは不明)。

W杯2022年大会の招致レースにはアメリカも立候補していた。もしCIA元職員が自分の会社の利益のため、ライバルだったカタールのエージェントとして違法な活動にかかわっていたなら、広い意味で「国家への裏切り」になるだけでなく、アメリカの諜報スキルが市場でダダ漏れになっていることをも意味する。

そのため、この問題の影響はサッカーだけにとどまらない。

すべては内部告発から始まった

ここで2022年大会をめぐる疑惑についてまとめておこう(サッカーに詳しい人には既知のことだろうからこの項を読み飛ばしてもらって構わない)。

W杯カタール大会に関しては、これまでも黒い噂が絶えなかった。カタールは富裕な産油国であるものの、中東の国として初めて、しかもこれまでW杯本戦に進出した経験もないまま招致レースを勝ち抜き、開催国に選ばれたことが、多くの人の目に不自然と映ったからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国船、尖閣諸島海域を通過 海警局が発表

ワールド

インド中銀が輸出業者の救済策発表、米関税で打撃 返

ワールド

シカゴとポートランド派遣の州兵、一部撤退へ=米当局

ワールド

MAGA派グリーン議員、トランプ氏発言で危険にさら
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃度を増やす「6つのルール」とは?
  • 4
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 5
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 6
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story