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いけばなを通じて「いのち」と向き合うこと、そして日本文化を継承することについて、華道家元池坊の次期家元である池坊専好氏にアステイオン編集委員の佐伯順子・同志社大学教授が聞く。
※【前編】「生け花」と「フラワーアレンジメント」は何が違うのか?...華道家・池坊専好が語る「いのちを生ける」思想 から続く。
佐伯 専好先生は1989年に次期家元に指名され、「池坊初の女性家元」となるお立場です。
どの業界においても、その職にふさわしいか、適性があるかが大事であり、「女性」にこだわりすぎなくてもよいかもしれませんが、一方で、女性で初めて家元としての重責を担うことにはプレッシャーもおありかと拝察します。
いけばなの将来を見据えて、今後の抱負をお聞かせいただけますか。

池坊 私が次期家元に内定したのは、もう35年も前のことになります。その頃からずっと心に抱いてきたのは、「いけばなというのを池坊人だけのものにしてはいけない」という思いです。
人は、自分の好きなものを過大評価してしまいがちですが、客観的に見れば、世の中にはいけばなそのものを知らない人も多い。また、多数の流派があることも知られていません。
こうした現状の中で、「池坊とは何か」をもっと広く知ってもらいたいと思っています。代々続いてきた世界観を少しでも良い形で次世代に渡していきたいという気持ちをずっと持ち続けてきました。
だからこそ、海外展開を含め、目の前の小さな仕事であっても大切にし、できるだけ断らずに、前向きに取り組むように心がけてきました。
佐伯 華道の継承とともに、社会との幅広いつながりを意識されることは、現代社会における伝統文化の存在意義を示す意味でも、極めて有意義なことですね。最近は学問の世界でも、「これが社会にとって何の役に立つのか」と単純に批判されがちです。直接的に役に立つ、立たないという価値観ではかれるほど、学問や文化の世界は浅薄なものではないのですが。
そうしたハードルをのりこえて、池坊の世界観を「内輪のもの」ではなく、外へ開いていくというご姿勢をずっとお持ちだったのですね。
池坊 本来であれば若くしていけばなの世界に没入するのかもしれませんが、私の場合は「次期家元」という立場が長いので、いけばな以外の世界からも学ぶ機会がありました。
芸術とは一見無関係に見える分野であっても、自分の世界に置き換えればヒントはたくさんあります。経営や人との関わり方なども含めて、多くのことを学びました。
佐伯 社会とのつながりを意識すると、文化芸術としてのいけばなの継承のみならず、様々な経営能力や事務作業の効率化なども問われるかと思います。
しかも、歴史ある池坊の組織全体を率いるとなると、いろいろ苦心もされるかと思いますが、華道家、芸術家として家元に必要な資質と、経営的な手腕との両立については、どのような工夫をなさっていますか。
池坊 ある意味、芸術家と経営者は相反する面があります。芸術家はお金のことを度外視して、自らの表現を徹底的に追求することが求められます。一方で経営者は、費用対効果をどうしても冷徹に考えなくてはなりません。
組織の規模が小さいうちは両立もできますが、大きくなるほど両立は難しい。家元といえども人間ですから、すべてを一人で担うのは限界があります。芸術面に長け、経営センスも兼ね備えた人材というのは、現実にはそういません。
だからこそ、家元の個性を生かし、不足を周囲が補っていく体制が必要です。大きな組織を持続させる上では芸術の核となる表現を守りつつ、経営を支える仕組みをどう整えるかが鍵になります。
