コラム

支持低下のBLMは何を間違えたか──公民権運動との決定的な違い

2021年04月27日(火)17時25分
カリフォルニア州のBLMデモ参加者

カリフォルニア州のデモ参加者(2021年4月11日)  RINGO CHIU-REUTERS


・アメリカではBLMへの支持が減っており、とりわけ白人の支持低下が目立つ。

・白人の間でBLM支持が低下した背景には、暴動などの過激化だけでなく、BLMが白人の穏健派を取り込める目標を掲げてこなかったことがある。

・冷静な戦略を欠いているという点で、BLMには公民権運動との違いが鮮明である。

黒人差別に反対する抗議活動(BLM)は、アメリカで支持を減らしている。その最大の要因は、BLMの行動と目標が黒人以外に支持されにくいことにある。

風向きの変化

昨年5月にミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドが死亡した事件の裁判で、陪審団は20日、元警官デレク・ショービン被告に第2級殺人などで有罪を宣告した。白人警官が公務中の行為で有罪になることは極めて珍しいが、そこには昨年来のBLMの高まりが影響したとみてよい。

ただし、BLMに対する風向きは変わりつつある。

USAトゥデイと市場調査会社イプソスが共同で行なった世論調査によると、「BLMを信頼する」と応えたアメリカ人の割合は、2020年6月には60%だったが、2021年3月には50%にまで下落した。入れ違いに、「法の執行(つまり警察や裁判所)を信頼する」という回答は、同じ時期に56%から69%に増加している。

そこには白人の低評価がある。内訳をみると、黒人によるBLM支持は今年4月に85%にのぼったが、その一方で白人によるBLM支持はジョージ・フロイド事件直後の43%をピークに下落し続け、4月には37%にまで低下した。直近の「BLM反対」は、黒人で5%だったのに対して白人のそれは49%にのぼった(アジア系などによる支持率は不明)。

経済損失は10億ドル以上

当初目立った白人のBLM支持は、なぜ減ってきたのか。そこには大きく二つの理由があげられる。

第一に、経済損失だ。昨年5月末の約半月だけで、BLMの暴動、略奪、破壊により、保険会社の支払いは10億ドルにのぼった。

この規模はコロナ第一波にともなうロックダウンによる経済損失(3〜5兆ドル)とは比較にならず、ハリケーンによる年間被害額(600〜650億ドル)と比べても小さいものの、アメリカ社会にとって大きな負担であることは間違いない。

「警察の縮小」への反対

第二に、さらに根深い問題としては、BLMが警察への不信感から「警察の予算削減・規模縮小」を要求していることだ。

ジョージ・フロイド事件に象徴されるように、白人警官に黒人が殺害される事件は後を絶たないが、これを多くのアメリカ人は警察の「構造的人種差別」と認識している。実際、ピュー・リサーチ・センターの調査によると、警官の約67%が「警察による黒人の死亡事件」を「個別の問題(つまり偶発的な事件)」と捉えるのに対して、アメリカ市民の60%は「より幅広い問題のサイン(つまり人種差別の表れ)」とみている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米英首脳、両国間の投資拡大を歓迎 「特別な関係」の

ワールド

トランプ氏、パレスチナ国家承認巡り「英と見解相違」

ワールド

訂正-米政権、政治暴力やヘイトスピーチ規制の大統領

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story