コラム

「美白」クリームと人種差別──商品名の変更を迫られるコスメ産業

2020年07月02日(木)12時05分

インドにあるユニリーバ系列のヒンドゥースタン・ユニリーバ(写真は2015年1月19日) Danish Siddiqui-REUTERS


・インドでは「美白」をうたった化粧品の商品名が相次いで変更されている

・そこには「白い方が美しい」という価値観のすり込みが人種差別的だという批判がある

・ただし、その反動で「黒い方が美しい」と主張すれば、人種の違いを固定し、そのなかで優劣を争う呪縛から逃れられていないことになる

人種差別への反対は世界的に広がっているが、そのなかで「白人こそ最高」とイメージされるものの除去も進んでいる。

白は美の基準か

世界各国で食品や家庭用品の製造・販売を展開するユニリーバは6月25日、インドで販売されていた美白クリームの商品名を改めると発表した。このクリームは'Fair and lovely'(日本語にすれば「色白美人」といったところか)というが、このFair(色白)を商品名から外すというのだ。

この商品名をめぐっては、SNSで#DarkIsBeautiful(黒い肌は美しい)といったハッシュタグが立てられるなど、インド国内で問題視されてきた。「白い肌が美しい」という基準が「白人こそ最高」「白くない肌の女性は劣ったもの」となりかねないからだ。ユニリーバがイギリスとオランダに本拠をもつヨーロッパ系であることは、これに拍車をかけた。

さらに、アメリカでの黒人男性死亡事件をきっかけに人種差別反対の抗議デモが世界に拡大したことで、ユニリーバは商品名の変更に踏み切った。

商品名の変更についてユニリーバは「美に関するより包括的な見方のため」と説明している。

コスメ産業に広がる「美白」封印

こうした動きはユニリーバだけではない。

アメリカ企業ジョンソン&ジョンソンはその前週末、アジアや中東で販売する美白乳液'Fine fairness'(「素敵な美白」か)や美白クリーム'Clean and clear fairness'(「美しく透き通った美白)シリーズの販売を取りやめると発表していた。

また、世界最大の化粧品メーカー、ロレアルも商品名からwhite、fair、lightなどの言葉を削除する方針を打ち出している。

これに対して、言葉の修正だけでは不十分で、インドや中東で美白クリームの販売そのものを中止するべきという意見もある。インドで「美白」批判を主導してきた活動家の1人、シャンダナ・ビラン氏は英BBCの取材に対して、商品名の改称が包括性への重要な一歩と評価する一方、「彼らがそれを何と呼ぼうと、実質的に美白クリームであることは変わりない」と述べ、化粧品メーカーにさらなる見直しを求めている。

頭の中の植民地支配

こうした出来事を過剰反応と思う人もあるかもしれない。しかし、インドに限らず、肌の色は「見えない支配関係」の象徴とみなされてきた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州への不法移民20%減少、対策強化でも

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ停戦合意至らす トランプ氏「非

ワールド

トランプ氏「今すぐ検討必要ない」、中国への2次関税

ワールド

プーチン氏との会談は「10点満点」、トランプ大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story