コラム

アメリカが離脱してロシアが立候補する国連「人権」理事会って何?

2018年06月22日(金)17時08分

アメリカが離脱表明した翌日の国連人権理事会(6月20日、ジュネーブ) Denis Balibouse-REUTERS

<人権問題が一筋縄でいかないのはいつものことだが、アメリカが離脱して中露が理事国になるとしたらブラック過ぎる>

6月20日、アメリカ政府は国連人権理事会からの離脱を発表した。国連人権理事会は世界の人権問題を取り扱う機関で、ここからの離脱でアメリカの国際的孤立はさらに鮮明となった。

一方、アメリカの離脱により空席となった理事国の座は、ロシアが獲得の意志を示している。トランプ政権による一方的な行動が結果的に反米的な国の「敵失」につながる構図は、この問題でさらに強まるとみられる。

国連人権理事会とは何か

まず、国連人権理事会とは何か。この機関は国連人権委員会を改組して、2006年に発足した。国連総会で選出される47の理事国(任期3年)で構成され、各地域に理事国の数が割り当てられている。

・アフリカ 13カ国
・アジア・太平洋 13カ国
・中南米 8カ国
・西ヨーロッパおよびその他 7カ国
・東ヨーロッパ 6カ国

国連加盟国の人権問題について独自に調査し、人権状況の改善に向けた勧告を行う権限をもつ。深刻な人権侵害に関する申し立てをNGOや個人から受け付けている他、各国は4年ごとに人権記録を審査される。その成果は、毎年の報告書などで発表される。

その決定や勧告に強制力はない。しかし、現代の世界ではどの国にとっても「人権問題に熱心でない国」というレッテルを貼られることは避けたいところで、その決定や勧告は道義的な拘束力を帯びたものになる。

日本政府は過去に北朝鮮による拉致問題やハンセン病患者の処遇改善などで議論をリードした一方、戦時中の従軍慰安婦の問題解決、障がい者やひとり親家庭の貧困問題などで是正勧告を受けている。

アメリカン・ウェイは変わらない

アメリカと国連人権理事会の因縁は、今に始まったものではない。

2006年に人権理事会が発足したとき、アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権は参加を拒んだ。アメリカ軍の活動などがその調査・勧告の対象になれば、アメリカの国益に反するというのが理由だった。

その後、2009年にオバマ政権は人権理事会に「復帰」。オバマ政権のもとで、アメリカは人権理事会での議論を主導しようとし続けてきた。

人権理事会に参加しても、参加していなくても、アメリカが自らの人権に関する考え方を貫こうとする点では同じといえる。アメリカのヘイリー国連大使は人権理事会からの離脱にあたっての演説で、「離脱後も人権理事会の外で、アメリカは人権分野でリードする」と強調している。

アメリカはなぜ離脱したか

それでは、なぜトランプ政権は人権理事会からの離脱を決定したか。

離脱にあたっての演説で、ヘイリー大使は人権理事会が「人権侵害者の保護役、政治的な偏見の巣窟になってきた」と主張した。つまり、人権理事会が本来の役割を果たせておらず、ここにとどまっていると人権の促進ができないので脱退する、というのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米失業保険継続受給件数、10月18日週に8月以来の

ワールド

米FRB議長人選、候補に「驚くべき名前も」=トラン

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資へ 米はF35戦闘機

ビジネス

再送米経済「対応困難な均衡状態」、今後の指標に方向
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story