コラム

なぜ5月14日に米国はエルサレムで大使館を開設したかー「破局の日」の挑発

2018年05月15日(火)20時46分

70年前、イスラエルは独立を宣言し、パレスチナ人は家を追われた Ibraheem Abu Mustafa-REUTERS


・5月14日はイスラエルが独立を宣言した日であり、同時にパレスチナ人の「破局」が始まった記念日でもある

・この日に、イスラエルが実効支配するエルサレムで米国が大使館を開設したことは、イスラーム世界からみれば挑発以外の何物でもない

・高まる批判にもトランプ政権は強気の姿勢を崩さないが、これは米国が自分で自分の首を絞めることになりかねない

5月14日、米国の在イスラエル大使館がエルサレムで開設。これに対して、パレスチナ各地で抗議デモが発生し、イスラエル治安部隊の発砲により、ガザでは59名が死亡しました。

これに対して、クウェートが国連安保理の緊急会合の開催を求めるなど、イスラーム諸国から批判が噴出。しかし、米国政府は「死者の増加はパレスチナ側に責任がある」とイスラエルを擁護しています。

3宗教の聖地エルサレムは、ただでさえ宗派間の火種になりやすいものです。また、この街はイスラエルに実効支配されていますが、少なくともエルサレムの東半分をイスラエルのものと認める国際法的な根拠はありません。

米国がエルサレムに在イスラエル大使館を移したことは、統一エルサレムをイスラエルが法的根拠なく支配することを認めるものです。

ただし、イスラーム圏から批判が噴出し、エルサレムで緊張が高まるのは、これだけに原因があるわけではありません。

米国がエルサレムで在イスラエル大使館を開設したのが5月14日であったことは、イスラーム世界からみて「挑発」以外の何物でもありません。

70年前の1948年5月14日、イスラエルは建国を宣言し、その翌15日はパレスチナ人にとって「ナクバ(破局)」の記念日になっているからです。

破局の日

パレスチナの土地をめぐる争いのなかで、米国は一貫してイスラエルを支持してきました。これはイスラーム世界の反米感情の根底にありますが、5月14日はこの対立を象徴する記念日でもあります。

1948年5月14日、イスラエルは独立を宣言。古代ローマにこの地を追われ、世界に四散し、各地で迫害されたユダヤ人にとって、「国家を持つこと」は2000年の悲願でした。そのため、イスラエルにとって5月14日は、このうえない「慶賀の日」です。

ただし、それはパレスチナ問題のもう一方の当事者パレスチナ人や、それと連なるイスラーム世界からすると「破局」に他なりませんでした。

パレスチナ人とは、ユダヤ人がこの地を空けていた2000年間にこの地に住み着いたアラブ人を指します。イスラエル建国にともない、約70万人が居住地を追われた5月15日は、パレスチナやイスラーム世界で「ナクバ(破局)」の記念日となっています。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

イスラエルのガザ市攻撃「居住できなくする目的」、国

ワールド

米英、100億ドル超の経済協定発表へ トランプ氏訪
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story