コラム

シビリアンコントロールだけでない自衛隊日報問題の根深さ──問われる「安全神話」

2018年04月12日(木)13時00分

2017年3月、国会で答弁する当時の稲田朋美防衛相。このとき「ない」と言っていた自衛隊のイラク派遣時の日報が今回、出てきた Issei Kato-REUTERS


・これまで政府は危険な地域に自衛隊を派遣する際も、国内世論への配慮から「安全」を強調してきた

・とりわけ危険なイラクや南スーダンへの派遣は、防衛省・自衛隊よりむしろ、政府首脳や外務省の主導で行われた

・今回の日報問題は、「文民による自衛隊の監督のあり方」だけでなく、「文民が自衛隊をどのように運用してきたか」をも再考する糸口になる

南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)の日報に続き、イラク派遣での自衛隊の日報の存在が明らかになった問題は、「防衛省・自衛隊のガバナンス」や「シビリアンコントロール」の問題として関心を集めています。しかし、そこにはもう一つの問題が潜んでいます。

防衛省によると、昨年3月に陸上自衛隊研究本部(現・教育訓練研究本部)でイラク派遣部隊の日報が見つかった後、陸上幕僚監部からの問い合わせに「日報はない」と返答していたといいます。「都合の悪い情報」が意識的に隠蔽された疑いが濃厚ですが、問題は「誰にとって」都合の悪い情報だったかです。

イラクと南スーダンの事案で共通するのは、防衛省・自衛隊よりむしろ政府首脳や外務省が主導して、危険が数多く報告される土地へ、「危険はない」と強調しながら自衛隊を派遣したことです。今回の日報問題は、情報管理の粗雑さだけでなく、自衛隊の海外派遣の矛盾にも、改めてスポットを当てるものといえます。

危険の過小評価

1992年に初めてカンボジアでのPKOに8名の自衛官が参加して以来、自衛隊は19ヵ国に派遣されてきました。今回、日報が発見されたイラクと南スーダンでの活動は、そのなかでも特に危険度の高いものでした。

イラクでは、米英による侵攻でフセイン政権が打倒された直後の2003年と2007年、人道支援や物資輸送のためにC-130H輸送機などが派遣されました。一方、南スーダンへは国連のPKO部隊の司令部要員として2008年に2名が派遣され、徐々に規模を拡大して最盛期には300名が駐屯していました。

いずれも自衛隊の任務そのものは戦闘と無縁でした。しかし、テロや戦闘が特に目立つ国への派遣だったにもかかわらず、どちらの場合も政府首脳は「自衛隊の活動地域は安全」と強調し続けました

2003年に国会で「イラクで戦闘がない土地などあるのか」と追及された小泉首相(当時)は「自衛隊の派遣されるところが非戦闘地域」と豪語。しかし、当時のイラクでは外国軍隊へのテロ攻撃が相次ぎ、自衛隊が派遣された2003年、2007年に限っても、米軍だけで、それぞれ486人、904人の死者が出ています。この背景のもと、自衛隊の活動は短期間のうちに終了しました。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米指標やFRB高官発言受け

ビジネス

ネットフリックス、第1四半期加入者が大幅増 売上高

ビジネス

米国株式市場=ほぼ横ばい、経済指標と企業決算に注目

ビジネス

USスチール買収計画の審査、通常通り実施へ=米NE
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 3

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 4

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 5

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 9

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 10

    紅麴サプリ問題を「規制緩和」のせいにする大間違い.…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story