コラム

世界に広がる土地買収【後編】──海外の土地を最も多く買い集めている国はどこか

2018年03月16日(金)19時25分

合法と正当の間

土地を買う側は農作物など必要な物資を生産し、調達するために土地を「輸入」します。それに対して、売る側の多くは「他に売るものが乏しい場合」に売ることになります。つまり、土地買収は需要と供給に基づく商業的な取引で、その多くは合法的なものです。

しかし、法に適っていれば正当とは限りません。大規模な土地の取引には現地政府との関係が重要になりますが、その国の政府が民主的でも公正でもないことは、特に開発途上国では珍しくありません。その結果、違法なものはもちろん、例え合法的な土地買収であっても、現地政府と癒着した企業による、「土地収奪」とも呼ばれる不当なものが多く含まれるのです。

世界の「土地収奪」を告発するNGOの国際的ネットワークであるGRAINによると、例えば最大の「輸出国」コンゴ民主共和国では2015年6月、世界的な食品メーカーであるユニリーバが出資し、米英仏などの政府機関が資金協力するカナダ企業が10万ヘクタールの土地を所有し、パームヤシ農園を経営しているのみならず、周辺住民を同国の最低賃金を下回る1日1ドルで雇用していたことが発覚。

これが広く報じられたことで、カナダ企業は状況の改善を約束せざるを得なくなりましたが、GRAINのデータベースにはこの他にも世界全体で400件(3500万ヘクタール)以上の「土地収奪」が記録されています。

「土地収奪」はなぜなくならないか

フランス政府は2018年2月、中国を念頭に外国企業による農地の買収を制限する方針を打ち出しました。日本でも、北海道での森林買収の多くが中国企業によるものです。これらの「中国の悪行」は日本を含む西側メディアで頻繁に取りあげられ、GRAINの報告書でも多く登場することから、中国がグローバルな「土地収奪」の主役の一人であることは確かです。

その一方で、中国の「土地収奪」への警戒があっても、それを世界レベルで規制する動きにならないのは、ほとんどの主要国が多かれ少なかれ、これに関わっているためです。農産物などの確保に向けた競争が激しくなるなか、「自分だけレースから降りる」という選択は、ほとんどの国にとって困難です。この構造が世界中で土地が不当に取引される状況を促しているといえるでしょう。

したがって、日本もこれと無縁ではありません。モザンビークでは2014年、日本の国際協力に関わる事業でブラジルとポルトガルの合弁企業アグロモス社が大豆生産のために10000ヘクタールの土地を取得したことをめぐり、大規模な抗議デモが発生しています。

もちろん、私自身を含む日本人の生活がこの世界の歪みのうえに成り立っているわけですから、「土地収奪」を生む土壌を糾弾するだけでは一向に問題が解決しないことも確かです。そのなかで重要なことは、世界の歪みを意識することです。例えば、食品ロスをなくすことは、「もったいない」という伝統的な観念に適い、自分の財布に優しいだけでなく、過剰な食糧需要、さらには土地買収の必要を減らすことにつながります。我々の日常生活は、良くも悪くも、世界の歪みと無関係ではないといえるでしょう。

【関連記事】世界に広がる土地買収【前編】──中国企業による農地買収を活かすには

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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