コラム

「貧困をなくすために」宇宙進出を加速させるアフリカ 「技術で社会は変えられる」か

2017年12月31日(日)13時30分

【参考記事】大統領選挙を前に過激化するボコ・ハラム:掃討が困難な背景

社会が技術を制約する

1960年前後に独立した多くのアフリカ諸国では、冷戦の背景のもと、東西両陣営からの援助による巨大ダムやテレビ局の建設などを通じて、当時の最先端の科学技術を海外から導入しました。独立したてのアフリカ諸国は、「一人前の国になった」シンボルとして、科学技術の導入を進めたといえます。しかし、メンテナンスを行う人材の不足などから、結果的に無駄になることも珍しくありませんでした。

全ての国がそうとはいえませんが、2000年代の資源ブームで急速に成長したアフリカ諸国のなかには、高揚感に満ちた独立期と同様、「科学技術の導入」そのものが目的になっている国があったとしても不思議ではありません。また、冷戦期の米ソと同様、宇宙進出が国威発揚の手段になっていることも否定できません。少なくとも、適切なガバナンスを欠いたままでの人工衛星の導入に高いパフォーマンスを期待することはできません。

それにもかかわらず、アフリカでの宇宙進出を加速させている一因には、海外からのアプローチもあります。現在、宇宙開発は巨額の資金の動くビジネスであり、西側諸国だけでなくロシアや中国、さらに日本もこぞってアフリカ各国の人工衛星打ち上げに協力的です。

宇宙進出の技術をもつ国にとっては、アフリカが有望な市場であると同時に、「技術で社会の問題を解決する」というアイデアを実行するのに格好の土地と映るかもしれません。さらに、宇宙進出に関する協力は、アフリカを取り巻く大国同士の進出競争の一環となっているともいえます。しかし、現地からの要請に沿ったものであったとしても、社会や政治のあり様と無関係に科学技術の成果を投入してきたことが、結果的にアフリカの「コストパフォーマンスの悪い宇宙進出プロジェクト」を加速させていることもまた確かです。

だとすると、技術開発をする側にいかに高邁な理想があろうとも、それを上手に運用できる環境がなければ、科学技術は宝の持ち腐れとなり、アフリカの人工衛星は「盛大な打ち上げ花火」で終わります。言い換えると、「技術が社会を変える」のと同じくらい「社会が技術を制約する」といえます。その意味では、宇宙進出レースが過熱するアフリカは、「イノベーション信仰」が広がる世界において、「技術で社会を変える」モデルケースであると同時に「技術革新の成果が反映されやすい社会のあり方」を再考するモデルケースでもあるといえるでしょう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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