コラム

FRBには銀行不安以外に配慮すべき問題がある

2023年04月05日(水)18時10分

パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長 REUTERS/Leah Millis

<今回の銀行懸念が、金融危機を併発して米経済を深い景気後退に招く可能性は高くないと筆者は引き続き考えているけれども......>

3月10日に米銀行の破綻が報じられた後、世界の株式市場では銀行株が連鎖的に下落、経営再建中だったクレディスイス銀行にも飛び火した。一つの銀行破綻が他の金融機関に波及するのは金融危機の特徴で、リーマンショックの記憶がまだ残る中、同様の事象に発展するとの疑念が一時市場心理を支配した。破綻した米シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行の総資産はGDPの1.3%に相当、これらは大手銀行ではないが相応の規模の大きさの銀行である。破綻への対応を間違えれば金融機能が麻痺し、米国を中心に経済活動への影響も甚大になりうる。

ただ、破綻銀行の預金全額保護の特例措置を米当局・政府が即座に決めるなど、連鎖破綻・危機防止に注力した対応が功を奏しつつある。リーマン破綻時の不手際が、当時の経済的被害を大きくしたことを、米国やスイス政府が教訓にしていたということだろう。一時下落していた米国株は、3月末にかけて反発している。

実際に、SVBの破綻後の米中小銀行の預金流出の動きは、ほぼ1週間程度で峠を超えたとみられる。預金流出への対応を迫られた銀行は、NY地区、サンフランシスコ地区にほぼ集中しており、銀行預金のシフトがもたらす金融システムの揺らぎは全米に広がる兆しはほぼみられない。3月22日のコラムで述べたが、米当局の金融システム維持対応で、リーマンショックのような大型金融危機は封じ込められつつあるようにみえる。

米国の銀行問題が収まったとまでは言えない

ただ、米銀行の連鎖破綻は回避されるとしても、米国の銀行問題が収まったとまでは言えないだろう。米国では銀行全体で預金が減少に転じており、今後も預金流出に直面する中小銀行が浮上するなど、散発的に銀行問題が市場を揺るがす可能性はありえる。

3月中旬に銀行株が一時大きく下落したのは、銀行など金融機関の破綻が、その後の経済の大きな失速につながるシナリオが想起されたためである。リーマンショックやその後の欧州債務危機時の銀行への懸念が高まった時がそうだったが、一つの銀行破綻がシステミックリスクにつながり経済の大幅失速をもたらしうる。

ただ、金融機関破綻が、経済への影響度や金融危機に至るかは、破綻する銀行の規模、経済状況などいくつかの要因が複雑に影響する。このため、銀行破綻が起きてもそれが経済に及ぼす影響は一様ではない。米国では1980年代にS&L(貯蓄貸付組合)など小規模金融機関が年間100件以上が経営危機に陥った。また、1984年にはコンチネンタル・イリノイ銀行が経営破綻したが、これはSVBとシグネニチャー銀行とほぼ同等の資産規模の大きさだった。ただ、これらが起きていた時、1980年代半ばは米国の経済成長率は総じて好調だった。つまり、銀行破綻が起きても、銀行全体の資金仲介機能や経済成長にどのように影響を及ぼすかはケースバイケースということである。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。著書「日本の正しい未来」講談社α新書、など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米AT&T、携帯電話契約者とフリーキャッシュフロー

ワールド

韓国GDP、第1四半期は前期比+1.3%で予想上回

ビジネス

日経平均は反落で寄り付く、米金利高止まりを警戒

ワールド

メキシコ大統領選、与党シェインバウム氏が支持リード
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story