40年ぶりに観返した『狼たちの午後』はやはりリアルな傑作だった

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<実際の事件に基づく『狼たちの午後』は警察側でも人質側でもなく、アル・パチーノ演じる犯人側に主軸を置く>
1972年8月のニューヨーク。閉店直前のブルックリンのチェース・マンハッタン銀行支店を、武装した3人の強盗が襲撃した。主犯は27歳のジョン・ウォトウィッツで、共犯はサルバトーレ・ナチュラーレとロバート・ウェステンバーグ。
しかし襲撃と同時に臆したウェステンバーグは現場から逃走して襲撃犯は2人となり、金庫の金は移されたばかりでほとんど残っておらず、しかもうかつに書類を燃やしたために状況を知ったニューヨーク市警に包囲され、やむなくジョンとサルバトーレは支店長と女性従業員8人を人質に銀行に立て籠もる。
ここまでは実話。これを基にした映画『狼たちの午後』がアメリカで公開されたのは75年。『十二人の怒れる男』で監督デビューした社会派の巨匠シドニー・ルメットは、アメリカン・ニューシネマを体現する監督ではないけれど、警察側でも人質側でもなく犯人側に主軸を置く本作は、反体制・反権力を旗印の1つにするアメリカン・ニューシネマを代表する一作となった。
原題は『Dog Day Afternoon』。「Dog Day」は「真夏」や「盛夏」を意味するスラングだ。だから『狼たちの午後』は明らかな誤訳。だってアル・パチーノ演じるソニー(実話ではジョン)もジョン・カザール演じるサル(実話ではサルバトーレ)も、狼のイメージは全くない。
でも日本の配給会社は知りながら誤訳したのかも。だって『真夏の午後』よりは『狼たちの午後』のほうが確かにかっこいい。