麻原彰晃の三女を追ったドキュメンタリー『それでも私は』は日本社会の歪みを見せる鏡
このときの気持ちを一言にすれば悔しさだ。なぜなら13人のうち6人に、僕は(死刑確定前に)面会を続けていた。なぜ事件は起きたのか、どうしてサリンを散布したのか、何度も彼らと話し合った。
さらに麻原法廷は(ここに詳細を書く紙幅はないが)、裁判途中で明らかに精神に変調を来したと思われる被告人への精神鑑定を行わないまま進行し、一審だけで終結した。
つまり戦後日本において最も大きな事件のキーパーソンの裁判は、事件の根幹である動機を本人が語らないまま、最高裁どころか高裁の審議もなく、中途で強制的に終了した。でもこのとき多くの日本人は、裁判所の判断を熱狂的に歓迎した。
その麻原が処刑されたときも、実の娘である松本麗華のツイッター(現X)には、「おめでとう」「よかったね」などの書き込みが殺到した。たたいてよいとの社会的合意がなされた人やその家族への容赦ない罵声や嘲笑。自己陶酔したグロテスクな正義。
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