黒澤明の傑作映画『生きる』のテーマは「生」でなく「組織と個」
ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<役所勤めとは何もしないこと。命令や指示に従うこと。こうして組織はとてつもない失敗を犯す。ナチスもそうだった。アイヒマンや渡辺課長は僕でありあなたでもある>
昨年から今年にかけて、僕にとって大切な先輩たちの逝去が相次いだ。ほとんどは70代後半。なぜ皆、これほど天命に律儀なのか。命とは何か。死ぬとはどういうことか。そんなことを思いながら、20代の時に観た『生きる』を再見した。
ただしこの映画は、死と生を正面から扱った作品ではない。ブランコに乗って「ゴンドラの唄」を口ずさむ渡辺課長(志村喬)のシーンがあまりに強烈なのでそう思われがちだが(僕も記憶を再編集していた)、メインのテーマは組織と個の相克だ。
ポーランドにあるアウシュビッツ・ビルケナウ強制収容所に行ったとき、所長だったルドルフ・ヘスが居住していた家に案内された。ドイツから妻と5人の子供たちを呼び寄せたヘスは、鉄条網の外に小さな家を建てて家庭菜園も作り、一家仲良く暮らしていた。
もちろん家はもう解体されている。でも敷地は残っていた。ふと目を上げて僕は衝撃を受けた。ユダヤ人の遺体を焼いていた焼却所までは、歩いて数分の距離だ。仲むつまじく暮らす一家の目に、煙突から立ち上る黒い煙はどのように映ったのだろう。
処刑前に「私は巨大な虐殺機械の歯車にされてしまった」と述べたヘスと同じくナチス親衛隊員で、ユダヤ人移送の最高責任者だったアドルフ・アイヒマンは、戦後に名前を変えて潜伏していたアルゼンチンでイスラエルの諜報機関モサドに拘束され、裁判にかけられた。モサドはアイヒマンを以前から監視していた。でもこの痩せた貧相な男が、残虐なホロコーストのキーパーソンだという確証がどうしてもつかめなかった。
ならばなぜ工作員たちは、彼がアイヒマンであるとの確証を持って拘束できたのか。その日はアイヒマン夫妻の結婚記念日で、仕事帰りにアイヒマンが花屋に寄ったからだ。妻に花をプレゼントするために。
エルサレムの法廷に被告として現れたアイヒマンは、ホロコーストに加担した理由を何度聞かれても「命令されたから」としか答えることができず、外見も含めて役所の中間管理職のイメージそのままだった。
この法廷を傍聴したハンナ・アーレントは「凡庸な悪」という言葉を想起し、その著書『エルサレムのアイヒマン』において「アイヒマンの罪は多くの人を殺したことではなく、思考を停止してナチスという組織の歯車になったことだ」と書いた。
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