制作期間は7年超、アニメ映画『音楽』は全てがシンプルだからこそ斬新で衝撃的

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN
<不良高校生3人がふとバンドを始め、適当に出した「音」に覚醒する──潔さが過ぎるほど淡白なタイトルで、ストーリーにも劇的な要素は一切ない。なのに、見入ってしまうのはなぜ?>
公開前にプロデューサーの松江哲明から宣伝用のはがきを渡されたとき、表面に印刷されたメインビジュアルを見て、こんな稚拙なタッチで映画になるのだろうかと出来を危ぶんだことを覚えている。
しかもタイトルは『音楽』。ひねりが全くない。普通ならサブタイトルを付けたくなるはずだが、それもない。『音楽』のみ。その意味では潔さが過ぎるほどに淡白だ。映画の内容が全く想起できない。
おそらくは映画を観る前に、(僕も含めて)そんな思いを抱いた人は少なくないはずだ。そしてそんな人たちの多くは、たぶん観始めて20分が過ぎる頃、すっかり映画に見入っていたはずだ。
ストーリーはシンプルすぎるくらいにシンプルだ。不良高校生で他校の不良たちとけんかばかりしていた研二と太田と朝倉は、ふとバンドを始める。口火を切ったのは研二だが、そのきっかけの描写もシュールで淡い。劇的な要素は全くない。
3人は楽器を学校の音楽室から無断で拝借するが、編成はベースギターが2本とフルセットではないドラムだけ。しかも3人はチューニングすら知らない。ところが適当に出した「音」で、3人は何かに覚醒する。以下はそのときのセリフ。
研二「今のさあ、すーげえ気持ちよかった」
太田「俺も」
朝倉「俺も」
......これだけだ。でも3人は演奏に熱中する。このシーンだけではない。とにかく徹底して説明はない。そしてノンモン(音のない)の静止画が長い。だから観る側は観ることだけに集中できない。じっと動かない研二の顔を見つめながら、いろいろな思念が湧いてくる。あるいは思い出す。
例えば自分の高校時代。その頃に聴いていた音楽。淡い初恋。誰かのその後の消息。......映画に凝縮された誰かの青春を観るだけではなく、過ぎ去った自分の青春も思い出す。
同時に、観ながらつくづく思ったけれど人類にとっての音楽のアーキタイプは、(最初の音楽は歌ではないかと推察されているが)やはりメロディーではなくリズムなのだろう。研二たちのバンドにメロディーはない。リズムだけだ。でも響く。何かに届く。何かを揺さぶる。
悪そうな奴はたくさん出てくる。でも本当に悪い奴は一人もいない。登場人物の一人一人が愛おしい。仮に実写だとしても、これほどにドラマツルギーから悪意を排除した作品はそうはない。
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