コラム

自分がどうしたいか、「決め方」を知らない子供たち...未来の可能性を広げる取り組み始まる

2022年08月03日(水)10時10分

一般に、昨今の保護者や教師は、子どもに安定した企業や職種に就いてほしいと願い、リスクを回避しがちだと山本さんは話す。周囲の大人が関与するあまり、子どもたちは将来を半ば「方向づけられて」さえいる。そうした傾向は、新型コロナウイルス感染拡大などにより将来を展望しづらい現代ほど強まっているといい、「生徒が自由に考える余白が少なくなっている」と指摘する。

一方、「自分がどうしたいか、どうなりたいか」といった決定や判断をする行為そのものについて、学校で考えるタイミングは少ないようだ。河合塾が大学生566人に行ったアンケート調査によると、中学・高校時代に「決め方」を習った生徒は13%に過ぎない。

そうした課題を背景に、意思決定を学ぶプログラムの開発に着手した。その特徴は、「決める」ことの学習にある。

220729mnm_kwj02.jpg

「ミライの選択」のテキスト(筆者提供)

「選択」のし方を学ぶ

2011年当初、ミライ研は科学実験やクリティカルシンキング(論理思考)を中心に取り組んでいた。山本さんが加わった2015年以降は、生徒たちが将来や未来を想像し、創造することで学ぶ「未来思考」の比重を高めた。

特に充実させてきたのが、「ミライの選択」と「ミライの洞察」だ。

「ミライの選択」は、決定や判断の連続である人生において、重要な節目節目で納得のいく決断ができるよう、「決め方」を学ぶ。無数にある選択肢を合理的、戦略的に絞り込み、その選択の結果としてどういった未来が待っているか──。そのように複数のシナリオを考えることは、未来学の論理と通底する。

220729mnm_kwj03.jpg

(河合塾提供)

先の河合塾のアンケート結果は、裏を返せば、「学校で決め方を学ばない子ども」が87%ということになる。決め方について学ぶ意義や決め方の種類などの基礎を、100ページ近いテキストで手と頭を使って学習していく。

「ミライの選択」は、進路選択、やや大げさに言えば、「人生の重大なターニングポイントでの選択」に生かすことを目標に置く。そうした最終ゴールを意識しながら、「学校の期末試験に向けてどのような対策をするか」といった身近なテーマで「決定木(デシジョンツリー)」の仕組みや有用性について学んだり、「部活と勉強の両立で悩む」ケースを例に「総合評価法」を用いて実践したりしていく。

プロフィール

南 龍太

共同通信社経済部記者などを経て渡米。未来を学問する"未来学"(Futurology/Futures Studies)の普及に取り組み、2019年から国際NGO世界未来学連盟(WFSF・本部パリ)アソシエイト。2020年にWFSF日本支部創設、現・日本未来学会理事。主著に『未来学』(白水社)、『生成AIの常識』(ソシム)『AI・5G・IC業界大研究』(いずれも産学社)など、訳書に『Futures Thinking Playbook』(Amazon Services International, Inc.)。東京外国語大学卒。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

対米投資、為替に影響ないよう「うまくやっていく」=

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、「やや制約的な政策を続け

ビジネス

サムスン電子、モバイル事業責任者を共同CEOに 二

ワールド

原油先物は3日続落、供給増の可能性を意識
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story