コラム

EVに次いで車載電池も敗戦?──ここぞという場面でブレーキを踏んでしまう日本企業

2022年07月20日(水)14時34分

2021〜22年のEV産業はまさに2007年の太陽電池産業のような分岐点にある。今後EVが従来型の自動車の販売を着実に食っていくだろう。自動車メーカーが世界で生き残ろうと思うのであれば、自動車生産能力の大きな部分をEVに切り替える決断が必要である。

もちろん大規模な投資にはリスクがある。中国やアメリカには新興EVメーカーが多数現れ、欧米や中国の既存自動車メーカーも来るEV市場の拡大に備えている。世界2位のEVメーカーであるBYDは2022年3月をもってガソリンエンジン車の生産を停止し、純電動車BEVとプラグインハイブリッド車PHEVの生産のみに集中することをアナウンスした。市場規模は拡大するがプレイヤーの数も多くなり、競争が激しくなることは間違いない。中国では2022年末にEVに対する購入補助金が停止されるので、販売台数の減少もありうる。

EVに搭載する電池に用いるリチウム、コバルト、ニッケルの価格が2021年後半から急騰していることもリスク要因だ(IEA、2022)。

車載電池も斜陽に

ただ、EVはかつての太陽電池とは違って、政策次第で市場規模が大きく左右されるということないだろう。中国ではEVの価格下落により、2021年時点では平均的なEVの価格は平均的な乗用車より20%高いだけであったという(IEA、2022、p.27)。

EVの価格が同じ車格のガソリンエンジン車に接近してくると、仮に購入補助金が廃止されても、EVの購入を促すその他の政策の作用で、EVの販売規模が維持される。

電池原料の価格高騰についても、リチウムの資源自体は豊富なので、鉱山の供給能力はやがて需要拡大に追いつくであろう。そうなればリチウムの価格は下落に転じるだろうし、将来は回収された電池からのリサイクルが本格化すると見込まれている(『21世紀経済報道』2022年6月21日)。

EVで最も重要な部品は車載電池である。ここでも日本企業の凋落が始まっている。日本の代表的なEV電池メーカーといえばパナソニックであるが、同社はつい最近までテスラの独占的な電池サプライヤーであった。もともとパナソニックの高性能なノートパソコン用リチウムイオン電池にテスラが着目したところから今日のEV産業の隆盛が始まっている。その意味ではパナソニックはEV産業の重要な立役者であり、2016年まで車載電池の生産量が世界トップだった(『日経ビジネス』2018年6月11日)。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、11月は48.2に低下 9

ワールド

ウクライナ、和平案巡り欧州と協議 ゼレンスキー氏が

ビジネス

米、英の医薬品関税をゼロに NHS支出増と新薬価格

ビジネス

インタビュー:USスチール、28年実力利益2500
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story